「今年は何を作るんだ」
三成が買い物カゴにおやつの板チョコを放り込んで言った。バレンタインか、そういえばそろそろだったなあ。スーパーの一角にはでかでかとバレンタイン特設コーナーが設置されていた。お陰で板チョコが安かった。
「まだ決めてないよ」
「フン」
三成はどこか不機嫌そうに鼻を鳴らした。わたしは機嫌をとるために三成に腕を絡めた。三成はまるで気にする素振りを見せなかったけど、まあいい。
「私以外の男にチョコをやるのは許可しない」
「えー、なんで」
「絶対に許可しない」
ああ、それか。去年家康くんやら政宗くんやら、三成とも仲のいい男友達にチョコ(もちろん義理ではある)をあげたらやたら三成の機嫌が悪かった、一昨年も。たぶんそれを思い出してこんなにもムスッとしているんだろうかわいい奴。
「元親とかー政宗くんとかー、家康くんにもあげないとお世話になってるんだし三成が」
「関係ない」
「義理じゃん」
「知らん」
「えー、じゃあ今年は友達も既製品でいっかな」
「貴様、」
やばいな、機嫌がどんどん悪くなってる。ご機嫌取りにと絡めていた腕は振り払われて、三成はすたすた先に行ってしまった。苛立ちを隠せないまま乱暴に豆腐をカゴにブチ込む三成に駆け寄った。
「怒んないでよ」
「……」
「心配しなくても三成にはちゃんと特別なのあげるって」
「……」
「チーズケーキワンホール」
今まで知らんぷりを決め込んでいた三成の眉がぴくんと動いた。三成が見た目によらず甘いものが好きなのは知っている。ホールケーキなんて聞いたら三成も心ときめかすにちがいないとわたしは踏んでいたのだ。想像通り。作るのめんどくさいけど
「…ガトーショコラ」
「へ?」
「ガトーショコラワンホールだ、生クリームもつけろ。それで手を打ってやる」
「まあいいけど」
「その言葉、忘れたならば承知しない」
フン、と三成はそっぽを向いたがさっきとは打って変わってどこか上機嫌だ。単純だなあ。振り払われた手も今はがっちり繋がれていて、わたしの顔は思わず緩んだ。