ケーキに使うクリームを泡立てるみょうじに声をかけただけのはずだった。俺がうまそうだなと言うと、みょうじは味見してみるかと言ったのだ。頷くとみょうじは手にしていた電動ミキサーの電源を落とし、ボウルに指をつっこんだ、ブブブとうるさい電動ミキサーの音がなくなったせいでいやに静かだ。みょうじは白いクリームがでろんとまとわりついた指を突き出して、

「はい」

いや、はいじゃないだろう。これをどうしろと言うのだ。

「舐めて」

え、いや、ちょっと。

訴えるようにみょうじを見てもみょうじは生クリームの垂れる指を突きだしてくるだけだった。
いいから早く、と催促するみょうじに根負けして、舌先がみょうじの指に当たらないように慎重にクリームを舐めた

「……」

みょうじは何かいいたそうに眉を寄せた。みょうじの指は突き出されたままである。俺はみょうじとみょうじの指を何度か見比べてみたが、みょうじが何を考えているのかなどとても見当もつかない

「まだついてる」

いやしかし、と言う前に口に指がつっこまれた。二本も。状況がまるで飲み込めない。
みょうじの指が俺の舌を軽く叩いた。

「舐めてったら」

そう言ったみょうじの指が俺の口内をゆるりゆるりと探り始めた。
舌を撫で、歯列にも伸びてくる、みょうじの甘い指。

「ほら、早く、福富」

あんまりにもみょうじがねだるものだから俺は恐る恐るみょうじの指に舌を這わせた。みょうじが目を細めるのにどきりとする。そして軽くしゃぶるようにするとみょうじは目をつむり、はあ、と息をもらした。

「も、だめ」

もうだめなのは、俺の方だ。