最近御堂筋の元気がない。夏休み明けなのに。夏休み明けだから?インターハイのせいかと思って恐る恐る聞いたら、違うもう気にしとるわけないやろうるさい黙れ、だそうです。あんまりだ。
「御堂筋さーん」
じっとりとした視線で睨まれた。うう。教室には私たちの二人きり。授業は午前で終わりだから、もうみんな帰ってしまった。教室には燦々と残暑の日差し。御堂筋は自分の席にべたあと貼り付いて動こうとしない。
「帰ろ、教室閉めるよ」
「嫌や」
「えええ」
「嫌やゆうとるやろ」
そんなこと言われても。先生から施錠を頼まれている手前、置いて帰るわけにもいかないし。御堂筋は相変わらず机にへばりついている。
「…大丈夫?」
返事がない。
「お、おーい。大丈夫ですかー…どうしたんですかー…」
「暑い。死ぬ」
「はい?」
今なんて?暑い?そりゃそうだろまだ九月頭だぞ。地球温暖化ナメんな私だって暑いわこの野郎、なんて言ったらシメられる気がするので黙っておこう。
「こないクソ暑い中帰ったら確実に死ぬ」
「死なん!大丈夫だ!帰るぞ」
「死ーーぬーーーアカンて、アカンてなまえちゃん死ぬいうとるやろ」
八月の夏真っ盛りに自転車漕いでたんだから死ぬわけがない。ごねる御堂筋のカッターシャツを引っ張る。細いくせにタッパがある分重いのかびくともしない。
「なまえちゃんがボクを殺すーーーー」
「うるさいな下校時刻過ぎるじゃん早く」
「無理」
「ポカリ奢るから」
「…なまえちゃん起こしてやあ」
御堂筋が首だけ動かして言うもんだから不気味だ。渋々起こしてやると御堂筋の長細い腕が私に絡みついた。あっつ!!
「引きずってえや」
「無理。ていうか暑いなら離れてってば」
「自力じゃ歩けへんし」
嘘こきやがって!どうせ御堂筋はニタニタしてるんだろうと思ったら案外本気で暑さにやられていたのか相当参ったような表情をしていた。確かに暑さに強くはなさそうだしな。とりあえず自販機までくらいは介護してやるかとずるずると御堂筋を引きずって歩いた。周りの視線が痛かったことは言うまでもない。


▼残暑で死にかけの御堂筋を介護