浴衣を着込んだ夏祭り、着付けに戸惑ったらしい友達に待ちぼうけを食らってしまった。夕涼みするには些か暑い。裸のうなじに汗がにじんだ。
「よォ」
声をかけられて顔を上げた先には荒北くん。接点は同じ塾、というだけ。同じ授業を取っているわけでもなく、この間初めて話した。それから顔を合わせる度に挨拶を交わす程度。だけど、私は荒北くんをすっかり好きになってしまっていた。受験期になんてことだ。
「やっぱお前も祭りとか好きな訳?」
よれたTシャツにいつものぴっちぴちのパンツ。自転車用らしい。格好だけ切り抜いたらお世辞にもカッコイイとは言い難いけれど、荒北くんだとどうしようもなくカッコイイ。
「と、友達に誘われて」
「へェ」
荒北くんはフライドポテト片手に焼きイカを頬張りながら相槌を打った。
「浴衣、似合ってんじゃん」
なんでもないように放たれた一言に、私は茹で蛸のようになっていることだろう。食う?とフライドポテトを差し出す荒北くんの顔をまともに見ることは出来なかった。
「あ、ありがとう…」
惰性で口に入れたフライドポテトは全く味がしなかった。