塾通いはあれだけ嫌だと我を通したのに、今では進んで通っている始末。理由はひとつしかない。アルバイトで入っている大学生の荒北先生。定期テスト前とかにたまに理系科目を見てくれる。口は悪いけど、優しい。ついでに教え方も上手い。荒北先生に会いたくて、私は塾に通うようになった。理由は不純だけれど、結果勉強しているのだから、よしとして欲しい。
「先生、この前の模試、ちゃんとできたよ」
「へー、よかったじゃねェか」
頭を乱暴に小突かれる。褒めてくれるときはいつもそうだ。ほらね、って模試の結果を渡した。もっと褒めて。
「そういえば先生さ、生物わかる?」
「あー、俺物化だったから微妙」
「あたしね、来年から物理取らないの。文系だから」
ふうん、とあんまり興味のなさそうな先生に私はもう理科は教えてもらえないね、と言うことができなかった。先生が模試の結果を見てまた褒めてくれたから、いいけど。
「ねえ、明日いる?」
「いや」
「大学があるの?」
「そ、キツキツ」
「明後日」
「いねェわ」
大学生が忙しいのはわかってるけど、なんだかはぐらかされたようで腑に落ちない。あと四五年早く生まれてて、ついでに理系科目が得意だったら、なにか変わってただろうか。