高すぎる身長のせいで敬遠されることはよくあった。特に女子。威圧感ありすぎだの怖いだの、それくらいは言われ慣れているし今更気にもとめていないが。そんな怖がられて当然の俺を彼女は一切怖がらなかった。突然現れる226センチの人壁に驚くことはあっても、彼女はなんだ越知くんかと笑うだけなのだった。そんな彼女の身の丈は150センチ弱で俺との身長差は70センチ越え、遥か下でぴょんぴょんと飛び跳ねる彼女は実に可愛らしかった。
 そんな彼女を好きになるのに時間はかかっていない。守ってやりたい、切実にそう思うのだ。だってこんなに小さいのだから。けれどこんなに大きな男なんて、小さな彼女は嫌ではないのか。それを思うと想いを口に出すことがなかなかできなかった。好きだ、と言ってくれたのは彼女が先だった。テニスの試合で勝つよりよっぽど嬉しくて、思わず膝を折って小さな彼女を抱きしめた。少し情けなくもあったけれど、小さなぬくもりは微笑みを漏らすに充分だった。
 それから彼女は毎日遥か下から嬉しそうに話しかけてくれる。そうっと髪の毛に触れてみると、可憐な笑顔にまた花が咲く。愛しくて愛しくて仕方がない。その笑顔も、なにもかも自分のものにしてしまえたら。でも怖がられてしまうのでは、と考えてその思いを抑え込む。こんなだからキスのひとつもなかなかできなくて友人からは怒られた。そうして意を決してキスすれば、彼女はひとしきり顔を赤くしたあと今まででいちばんのとびきりの笑顔をくれた。
「越知くんはいっつもわたしを幸せにしてくれるからね、だいすき」
 こんなにかわいい人、他にいるんだろうか。いつまでも守ってやると密かに心に誓って、屈んで彼女にまた唇を寄せた。