ウチの自転車部がインターハイで優勝して数ヶ月、すっかり夏の暑さも去って涼しくなった。熱心な自転車部は今日も今日とて練習で、よくやるなあと思う。万年帰宅部の私にはとても考えられない。
「お疲れさま」
青八木は小さくありがとうとだけ言ってタオルを受け取った。青八木がものすごくものすごく頑張っていることを私は知っている。前より筋肉がついて男らしくなってきた身体に少しドキドキした。
「青八木、さ」
青八木は視線だけこちらにくれる。
「なんかすごい、かっこよく、なったね」
喋らないのは相変わらずだけど、雰囲気はまるで変わった。ちょっと前まで細っこくて頼りない感じがしてたのに(それも好きだったけど)。
「え」
「あ」
気まずい。青八木はどぎまぎしたように視線をあっちにやったりこっちにやったり。私もなんだかドキドキしてしまって、視線を地面から外せずにいた。
「あ、ありがと」
視界に青八木の足が入ってきて、スカートを握っていた手に少しだけ触れられる。顔を上げたときには青八木は既に私の目の前にはいなかった。たくましくなった背中に、頬がまた熱くなるのを感じた。