消えてしまいそうな人だなあ、とは前から思っていた。どこか地に足が着いていなくて、なんだかふわふわしていて、不安定で儚い印象が彼から離れなかった。唇を寄せられたり抱き寄せられたりしても、胸は高鳴るのにいつだって実感が伴わない。
「消えちゃわないでよ」
「え?」
山岳はきょとんとして、私の言葉の真意を探った。
「どういうこと?」
「そ、そのまんまの意味」
私にとっても思わぬ発言だったから返事に困った。
「たとえば?」
「じ、自殺とか…?」
やだなあ、とへらへら笑う山岳はやっぱりなんだか消えてしまいそうだ。いつか突然、何も言わずに、ふっと。
「死なないよ、君もいるしさ」
本当だといいけど。私もとりあえず山岳に愛想笑いを寄越した。