川辺の散歩道は通り抜ける風が少し冷たくて、もう少し厚着をしてくればよかったかなと思った。早く頼まれたおつかいを済ませて帰ろう、と歩幅を広げたところで土手の草むらに座る見慣れた人影を見つけた。ひょろっとした猫背、跳ねた襟足。見間違えるはずもない。
「みーどくん」
忍び足で近づいて、後ろから目隠しをする。みどくんはぴくりともしなかった。
「なまえちゃん」
気付いとったよ、とみどくんはくつくつ笑った。脇には彼の愛車が大切そうに倒してある。
「練習?」
「ん」
「そっかあ、私はねー、買い物」
「聞いてないんやけど」 
口ではそんなことを言いながらも彼は勝手に隣に座る私を咎めなかった。ついでに地面についた私の手を細い指で撫でて遊ぶものだからくすぐったい。
「一人なん?」
「うん」
私の答えに特に興味もなさそうなみどくんに思い切り抱きつく。何の用意もしてなかった彼は私もろとも草むらに倒れ込んだ。自転車は無事だ。
「もう、なんなん」
私は彼の胸元から香るかすかな汗の匂いを思い切り吸って笑う。顔を上げると彼は呆れたような表情をしていた。
「好きだなあって」
「はいはい」
大きな手がポンポンと私の頭を撫でる。ぶっちゅう、と色気の欠片もないキスをした。
「ヘタクソ」
「えへへ」
「買い物はええんか」
あ、忘れてた、と言えばしょうがないから一緒に行ったるわと言ってくれる彼が愛しい。立ち上がる前に私の首に長い腕を回して優しいキスをくれるものだから、愛しさがまた膨れ上がった。