ほとんど毎日ある彼の部活を、図書室で待つのが日課だ。彼と付き合うようになってから私は宿題をあまり忘れなくなったし、授業も前よりわかるようになった。彼を待つ時間は私にとってはちょっぴりくすぐったくてもどかしかったけれど、大きなラケットバックを持ってお待たせしましたと彼が微笑みをたたえてやってくるその瞬間が楽しみで楽しみで悪くはないと思えてしまう。男の子と一緒に帰る日が来るなんて、少し前までの私には想像もつかなかったのに。柳生に告白されたあの日以来、私はすっかり恋する乙女と化してしまっていた。彼氏がいてその人とイチャコラするのを想像すればなんだか吐き気がしていたくらいなのにこの変わりようだ。
 柳生と帰り道に交わす会話はほんとうに些細なものだった。でも柳生はどんな小さなことでもちゃんと聞いてくれたし、柳生も取るに足りない些細な出来事を私に話してくれるようになった。私は背が高くないから、背の高い柳生をしょっちゅう見上げる。ときどき目が合うと柳生は優しく微笑みかけてくれる。無性にうれしくなるけれど、乙女な自分が少し恥ずかしい。日に日に柳生との距離も近づいているような気がして、余計恥ずかしくなるのだった。
 今日は指先がほんの少しふれた。恥ずかしさを隠して話を続けるのが精いっぱいだった。そうしたら柳生が指を絡めてきて思わず肩が跳ね上がった。これはまずかったかな、と柳生を見上げれば彼はちょっと申し訳なさそうな顔をしていた。そして柳生はいけませんか、と困ったように笑って尋ねるのだ。あわてて首を横に振れば大きくてしっかりとした男の子の手が私の手を捕えた。ゆるく絡められた指先が熱をもって、私の胸の鼓動を早める。すこし柳生の手を握る力を強めれば、柳生も応えてくれる。こんな時間がずっと続けばいいのに。自分がそんなありきたりなことを願うなんて。ただでさえ私に合わせるせいで小さくなっている柳生の歩幅が、いつもより小さい気がするのは柳生もそう思っているからだといいな、なんて思った。