「あ、井尾谷じゃん」
「げ」
久しぶりの再会だというのに露骨に嫌そうな顔をするのは中学の同級生井尾谷…下の名前は忘れた。地元のしょっぼいお祭りにて。よれたツナギを着ている井尾谷は近くの工業高校が出店しているブースで何やら作業をしていた。
「そういえば工業高校行ったんだっけ」
「まあ」
「ツナギ似合うじゃん」
中学のとき二回同じクラスだっただけだし、制服と体操着姿以外見たことはなかったからなんだか新鮮だった。じろじろと彼を見つめる私に気づいた他の生徒たちが、なんじゃ彼女かなんて井尾谷くんを冷やかしていたけど彼が動じるはずもなく。おーい、おーい井尾谷ー、何度か呼びかけてみても井尾谷は変な機械をいじってばかりで取り合ってくれないどころか、帰れと言われてしまったのでので仕方なく退散した。
暇過ぎて来てみたはいいけど、いっくら田舎のしょっぼい祭りだからってこれはないだろうってレベルでつまらなかった。収穫は井尾谷と出くわしたあと、高校が別になった同級生何人かに会えたことくらいだ。フリマとか行ってみたけど、しょぼすぎゃしないかコレ。
「みょうじ」
もう特に用もないから帰ろうとしたところで誰かに呼び止められた。振り返るとよれよれツナギの井尾谷だった。え。
「ど、ども」
戸惑いつつ会釈をすると井尾谷はずかずか近寄ってきてひと言、ケータイ、と言った。
「え?」
「ケータイ、持っとるじゃろ。メアド、教えてくれん」
画面に並んだ井尾谷の文字が、なんだかくすぐったかった。