「あっ、あ、荒北くん」
バレンタインデー。決戦の日。ヘタレで臆病な私だけど、この日ばかりはない勇気を振り絞ることにした。荒北くんにチョコを渡すのだ!高二のとき消しゴムを拾ってもらって以来ずっと好きだった荒北くんにチョコを渡すのだ!義理と思われようがこの際なんでもいい。たくさんもらった大勢のうちの一つでももうなんでもいい。
「アァ?なんだみょうじか、なんか用か」
名前を覚えらていることに感動した。高二から奇跡的に二年間同じクラスだけど、まともに話したのは数回だからものすごくものすごく嬉しい。
「あっ、えっと、あの、これ、チョコ…」
「あーチョコね、誰に渡せばいいのォ?新開?東堂?」
「ちっ、ちがっ」
「げ、もしかして福ちゃんかヨ」
「ちっ、ちがうの!これは…その、荒北くんに…」
「は?俺?」
荒北くんは本気できょとんとしていた。私もびっくりだ。たくさんもらってるんじゃないのか。あれ…?
「う、うん」
「あー、あー…、マジか……、あー…なんていうかその、……サンキュ」
照れくさそうに頭を掻いて私からチョコを受け取った荒北くんは逃げるように去っていった。かなり、かなり予想外の反応だ。どうしよう…。とりあえず受け取ってはもらえて、ガッツポーズすべきなんだろうけど胸の高鳴りが止まらない。頬の熱を冷ましたくて、私も家路を急いだ。