手塚はなかなかに勝手な男だ。テニスとんでもなく上手いのをいいことに昔からテニスにかまけてばっかりだ。それはまだいい。奴は勝手に怪我をして私にだんまりを決め込んだ挙句勝手に九州へ行き、帰ってきて全国制覇した途端勝手に合宿に行き、そのままなんの連絡も寄越さず勝手にドイツへ行った。あっちゃこっちゃへ勝手に行く手塚と私がなんで付き合ってるのか私もわからない。戻ってきている少しの間に奴は私の心までも奪ったのだ。私の心を奪ったまま海外を飛び回り、また勝手に帰ってきて奴は一言愛してるとほざく。ムカつく。奴が私を放ってばかりのせいで私の恋愛経験値は中高生のそれなのだ。
「綺麗になったな」
欧米に感化された手塚はさらりと仏頂面で口説き文句を吐くようになった。
「待ちくたびれたわ」
「すまなかった」
「あんたなんかボインの外人と浮気しとけばよかったんだ」
我ながらこどもっぽい。でも、私は周りの女の子たちが彼氏を取っ替え引っ替えしてる横で奴を待ち続けた。なかなかに健気な女じゃないか。
「生憎だが俺はお前以外と恋をする方法を知らないんだ」
「くっさ」
抱き寄せられた胸板はあの日よりも随分と厚かった。ここで早鐘を打つ奴の鼓動でも聞こえれば許してやったのによく聞こえない。ムカつく。こいつはどうせすぐまた勝手にどっか行くんだろう。私もこんなバカ男さっさとフってしまえばいいのに、それができない。また奴を何年も何年も待つであろう自分が馬鹿みたいだが、こうして奴は必ずひょっこり戻ってくるのだから満更でもないかもしれない。