私の想像していた新開は、恋愛経験が豊富であんなことやこんなこともいちいちスマートにできて余裕綽々、みたいな。こう、もっと私を振り回してくるものだと思っていたのにいざ付き合ってみたら、普段の飄々とした感じはまるでなくていっぱいいっぱいに見える。あれえ。そういう新開もかわいいとは思うんだけど、なんだか腑に落ちない。まさか私が新開の初めての彼女ってわけでもないだろうし。初めてのキスは若干唇を外れて今日の二回目のキスは歯がごっちん。べつに不満とかじゃなくて、新開のことちゃんと大好きなんだけど、あまりに予想と違うから戸惑ってるだけで。
「わ、悪い」
「大丈夫、だけど」
「マジでごめん、あー…、俺カッコわる」
二度目のキスのあと新開は決まり悪そうに頭を掻いた。ぶつかった歯がじんじん痛む。
「あの、さ」
「…なあに?」
「俺、今まで自転車ばっかやってたからさ、その…女の子と付き合うのとか、みょうじが初めてで」
嘘だろ、と言いたくなったがこの様子を見るとあながち嘘でもないらしい。驚愕。
「だから全然わかんねえんだ、みょうじは俺がそういうの慣れてるって思ってるかもしんねえけど…カッコわるくてごめん」
「い、いいんだよ新開、ちょっと嬉しい、から」
だって私の初めては全部新開にとってはなんてことないんだろうなって思ってちょっとだけ悔しかったから、ちょっとだけ嬉しいなんて思うんだよ。私は初めて自分からキスをした。うまくいった。新開の顔は真っ赤だ。新開がこんなだなんて知ってるのは私だけだって思ったら少しだけ意地悪な笑みが漏れた。