一人暮らしの翔くんの部屋は、まあなんとなくわかっていたことだけど、殺風景でなんにもなかった。くたびれた六畳間に申し訳程度のちゃぶ台と、小さなストーブ、くたびれた布団が敷きっぱなしになっているだけ。翔くんらしい部屋だなあ、と部屋を見渡した。
「悪いな、布団敷きっぱで」
「ううん」
猫背の翔くんは荷物を畳に無造作に置いて、ちゃぶ台の側に座った。大きな背中。細身であるのにどこか頼もしい背中。
「何突っ立っとん、座りや」
わたしも翔くんの隣に座る。沈黙が寂しくなって翔くんを見上げると、翔くんと目が合った。絡む視線。むずむずして、我慢できなくなって、翔くんにキスした。薄い唇。
「なまえちゃん、」
「すきなの」
見開かれた翔くんの大きな瞳。でも翔くん、そんなの今更でしょ、ね。
「それは知っとる、けど」
「うん」
「ボク、こういうことはしたことあらへんから」
少し不安そうな翔くんが可愛いと思った。
「だいじょうぶだよ、わたしだってないもの」
それを聞いた翔くんはゆっくりと、ゆっくり、わたしにキスをした。恐る恐るの触れるだけ。幸せだった。
「すき」
もう一度。今度はちょっぴり舌を入れてみる。わたしったら大胆。翔くんが少しびくんとした。生暖かい。翔くんの手がわたしの腰を抱いた。どきどきする。
「なまえちゃん」
どさっ。くたびれた布団に組み敷かれる。どきどきする。翔くんが近い。低い体温を感じて、どきどきする。重なる唇、触れあう肌。溶けてしまいそう。嗚呼、どきどきする。