「なあ、オレすごいんだぜ」
 後ろの席のみょうじ、帰宅部。オレ、華のチャリ部。正直に言おう。オレはみょうじに気がある。が、特に共通の話題があるわけでもなくて自転車の話を振ることにする。ハコガクチャリ部といったら全国トップクラスの実力だしモテるし。
「なんで?」
「知らねえの?オレ自転車部なんだよ。しかもスプリンターっつって、ムッチャ速いの」
「ママチャリ?なら私も速いよ」
 とまあこんな感じなのである。ちょっと、ちょっとどころじゃないくらいなんか虚しくなってくる。ハコガクなのにチャリ部知らないとか。
「ママチャリじゃなくて!ロードバイク!」
「?わかんない」
「あー、あー…、そう、じゃあ今度部活見に来いよ」
「んー、いいよ。えーと、自転車部だよね?しんぶんくん」
「は?」
「ちがうの?さっき自転車部って自分で言ってたじゃん。しんぶんくん」
 そこじゃない。そこじゃねえよ。しんぶんくんってなんだよ。ちげえし。新開だっつの。ていうか、オレ名前も覚えられてなかったわけ?悲しい、悲しすぎる。あんまりだ。ぶっちゃけ、オレはモテるしなかなかの有名人だ。それなのにみょうじは名前も覚えてなかったわけか。やべ、涙出そう。
「しんぶんじゃねえよ。新開。し、ん、か、い!」
「えっ、そうなの?ごめんごめん」
「許さねー、部活見に来てくんねえと許さねー」
「わかったよー」
 前途多難だな全く。ぜってえ、ぜってえ振り向かせてやる。覚えとけよ、みょうじ!