珍しい奴だと思った。変な奴だと思った。キモイ奴だと思った。ボクのことキモイって言わへん。ボクのこと不気味だとか言わへん。普通に話しかけてきて、普通に笑顔を向けてきよる。そんな女他にはおらんかった。
「キモ。なんでそない絡むん」
「だって御堂筋くんの話面白いもん」
「意味分からん。キモ」
どっちかというと、ボクの方がキモイ。満更でもないと思っとるから。意味分からん。ウザイだけやのに。おかしい。
「みょうじさんおかしい」
「御堂筋くんに言われたくないなあ」
なんでそない嬉しそうなん。いっつも授業中は眠たそうにしとるくせに、なんでボクと話しとるときはそない嬉しそうなん。訳わからん。もうイヤや。コイツと話しとうない。訳わからんくなる。でも多分コイツがおらんかったらおらんかったで、また訳わからんくなると思う。キモ。ボクめっちゃキモ。ありえん。あー、キモ。
「…あんまボクと関わらん方がええよ」
「なんで?」
「…なんでも」
「それはイヤや」
「なんでなん」
「なんでも」
みょうじさんは相変わらずニコニコしとる。何考えてはるんやろか。訳わからん。ボクと話すくらいなら、他の奴と話した方がええやん。あー、でも、それはそれで…。そんなこと考えとる自分がキモイ。イヤやなあ。
「御堂筋くん」
「…翔でええよ」
「え?」
「長いやん。御堂筋って」
ウワ、キモ。ボクキモ。ありえん。ウッワー。みょうじさんキョトンとしとるやん。ボクなんでこないなこと言ったんやろ。訳わからん。キモ。
「じゃあ、翔くん」
「何」
「わたしのことも名前でええよ」
「は」
無理やん。無理。無理無理。ありえんし。
「フェアじゃないやん。もしかしてわたしの下の名前知らん?」
「…知っとるけど」
「じゃあ呼んで」
「…なまえ、ちゃん」
はよ帰りたい。なんかもう訳わからなさすぎて爆発しそうや。自転車乗りたい。でもちょっと喜んどる自分がおる。キモ。