私は、体育祭があまり好きではない。運動が苦手だし長時間外にいるのがやだ。出る種目も必要最低限かつ楽なのを選ぶ。玉入れとか。
クラス対抗リレーが終わって、私はぼんやり目の前で繰り広げられている借り物競走を見ていた。あ。やたらに細長いあの人は確か同じクラスの御堂筋くん。背が高くてひょろっと長い彼は遠くからでもよく目立つ。自転車では速いらしいが足は遅く、もたもた借り物の紙を開いて走り出したのはドンケツだった。
(がんばれー…)
あたりをきょろきょろ見回して、とにかくもたもたしている御堂筋くんを見ているとなんだか応援したくなる。私もかけっこはいつもドンケツだったから、ああいうのはなんだかほっとけない。
「あ」
目があった。ぎょろっとした御堂筋くんの目と。御堂筋くんはまるで怪獣のようにのっそのっそと走ってきて、体育座りの私のところまでやってきた。ぬっ、と見下ろされる。一瞬で私の視界は暗くなる。えっ、なに、なんなの。
「みょうじさん、ちょっと来てやあ」
「えっ」
「借り物」
「はあ」
思いっきり手を引っ張られ、半ば無理矢理トラックに引きずり出される。なにがなんだかよくわからないままとりあえずついて走り、ゴールを切ったが結局ドンケツはドンケツのままだった。6、と不名誉な数字がでかでかと印刷されたオンボロの旗の下に座る。パンとピストルが鳴って、次のグループが走り出していた。はあ、何だったんだろう。
ふと地面に目をやると、くしゃっと御堂筋くんに握りつぶされた借り物の紙。そういえば、私はなんで御堂筋くんに借りられてきたんだろう。特に目立った髪型をしているわけでもない。そっとそれに手を伸ばして、ぼんやり遠くを見ている隣の御堂筋くんに見つからないように、慎重に紙を開いた。そこに書いてあったのはたった四文字だったけど、私を驚かせるには十分だった。

好きな人

「あ」
御堂筋くんの声でバッと顔を上げた。やばい、見つかった。御堂筋くんのぎょろっとした目が怖かった。じんわりと汗が染み出てくる。ぎゅうっと紙を握りつぶした。何かの間違いだよねコレ、ごめんね御堂筋くん見なかったことにするよ

「ちゃうねん」

はい?

「ちゃうねんみょうじさん、別にボクみょうじさんが好きとかそういうのやないねん、たまたまそこにみょうじさんがおっただけやから、別にそういうのやないねん、」
「か、顔赤いけど大丈夫…」

私がそう言うと御堂筋くんは尋常じゃないくらい慌てふためいて、長い腕をばたつかせて、真っ赤な顔を逸らした。ええ、ちょっとこれは、予想外なんですけど、私どうしたらいいんだろう?とりあえず、私御堂筋くんのこと嫌いじゃないです、と言うと御堂筋くんが消え入りそうな声でありがとうと言ったのが聞こえた。

▼照れる御堂筋