「なあ」
始まったな、と思った。なにがって、新開の発情期がだ。訂正しよう。こいつは常に発情期だ。なにが始まったかといえば、新開のヤりたい衝動がだ。垂れ目がとろんとして、厚い唇がだらしなく半開きになって、はあ、という息が妙に生暖かくて、鬱陶しいくらい甘ったるい猫なで声。なにを、こんなに欲情することがあったのか教えてほしい。わたしはなにもしていない。断じて。
「あんたいい加減にしたら」
昨日したばかりだというのに。しかも公園のトイレで。新開がどうしても我慢ならないと言うものだから仕方なく。汚くてたまったもんじゃなかった。もう二度と御免だ。今日は寮の新開の部屋だからまだいいものの、昨日めちゃくちゃにされた身体が重たいし、寮の誰かに聞かれるのもまっぴらだし、なにより今は新開の言いなりになりたくなかった。
「なあ、もう、我慢できないよ」
「昨日もそれだったじゃない」
「なあ」
べろん、と耳を舐められて背筋が震えた。これは断じて興奮ではない。こいつの底なしの性欲がおぞましくてぞっとしただけだ。証拠にわたしのパンツは湿ってすらない。
「わたしの身にもなって」
「悪いとは思ってるさ、けど」
新開はわたしの手を引いて元気にテントを張っている己の股間に導いた。呆れてものも言えない。ため息だけはいくらでも出そうだけど。だいたい本当にわたしはなんにもしていないのに、なにをそんなにムラムラしてるんだ。まずそれを言え、と思ったが聞いたところでロクな答えは返ってこないと思い直した。
「今週ほぼ毎日してる」
「うん」
「わたしもうへとへとよ。毎度毎度今日だけ今日だけって、ふざけないで」
「ごめんて」
でももうこんなになっちゃったから、お願い。ふざけるなと声を大にして言いたかった。あとどれくらい発情期が続くのかと思うと先が見えなくて頭を抱えた。
「フェラだけ。今日はほんとにそれだけだから」
「うん、愛してるよ、なまえ」
ああ、これはヤるところまでやられてしまうな。新開にの言いなりなんぞなるまいというわたしの決意は早くも崩れてしまいそうだ。

▼やりたい盛りの新開