あの仁王くんに数学を教えてもらうっていうのも、なんだか変な感じなわけで。でも仁王くんって、見かけによらず案外真面目なんだよね。ノートちゃんと取ってるし。そう言ったらおまんが不真面目なだけじゃーって言われたけど。私は仁王くんと違って授業サボらないから仁王くんよりずっと真面目だと思うんだけどなあ。
「おいみょうじ、聞いとるんか」
「えっ?あっはいはい聞いてます聞いてます」
「じゃあ今教えたやつ解いてみい」
「…すいません聞いてませんでした」
 私は普通に友達に聞くつもりだったんだけどなあ、なんで仁王くんに教えてもらってんだろ。大して話したこともないのに。自習だから数学のわかんないとこ聞こうと思って、友達の背をつつこうとしたらとなりの仁王くんが俺が教えちゃるって…わけわかんない。自習の時はいっつも居眠り決め込むくせに。
「なんか文句でもあるんか」
「はいっ?」
「全部口に出とった」
「マジですか…」
「マジじゃ」
 仁王くんはそんな私にも親切に教えてくれようとしてくれるのだが、ぶっちゃけ数学が壊滅的に苦手な私にとってはその…あまり効果ないっていいますか。さらにぶっちゃけると友達に聞こうと思ってたっていっても、真の目的はフッツーにおしゃべりである。友達は私の数学に関しては諦めているので、「ここ教えて〜」「どうせわかんないでしょ」「まあそうなんだけど〜それでさあ」ってな流れで世間話につながるのが関の山っていうよりいつもなんですよ。そこんとこ仁王くんにもわかってほしいところではあるけど、そこまで親しくない上にこうして教えてもらってる以上そんなことも言えず。
「なんじゃみょうじは、天下の仁王雅治様が教えてやっとるっちゅうのに」
「はい…」
「わかるまで付き合っちゃるき」
「あの…非常に申し上げにくいのですが私数学は壊滅的でして…」
「知っとるよ」
「あっ、さいですか」
 なんでだ。なんで知ってるんだ。なぜだ。あんだけテスト返しで落ち込んどったらわかる?えっまた声に出してた?!うああ最悪…。ていうかなんで仁王くんはこんなに親切なわけ。数学の先生ですら私のことに関しては計算問題だけでいいから頑張れってな感じで投げてるのに!
「いやあのいいです仁王くんの迷惑になるし…」
「趣味じゃき別にいいナリ」
「でも…」
「俺は…数学できん女子の方がかわいいと思うぜよ」
 えっ。仁王くん真っ赤じゃないですか。どうしたんですか、何があったっていうんですかちょっと。目の前のいつもクールな仁王くんとは似ても似つかない姿の仁王くんにあっけにとられていたらチャイムが鳴って、仁王くんは口元を覆ってものすごい勢いで教室から出ていった。…なんだったんだろう、あれ。