イタチのことは大好きだけど、イタチと並んで歩くのは少し恥ずかしかった。里のみんなの視線が痛いから。あのうちは一族の長男で、超がつくほど天才で、ついでに見た目も申し分ない里きっての有望株と、ごくごく普通の家に生まれ、並の才能もなく可愛くもない地味なわたし。もとからその差なんてわかりきってはいるけれど、イタチと歩いているとそのことを嫌というほど思い知らされる。なんであんな子とつきあってるのかしら。不釣り合いよね。あんなブスと、なんで。そんな声が聞こえてくるたび、イタチが声の主をぎろりと睨んだあとやさしく頭を撫でてくれるのがまたなんだかいたたまれない。
「イタチは、さ」
おそるおそるイタチの顔を見上げるとそこには柔らかな微笑みがあった。彼がこんな穏和な表情を見せてくれるのはわたしと、彼の弟くらいなものだという自負はあったけれど、それでも。
「なんで、わたしなんかと付き合ってくれるの」
答えを聞くのはほんのすこし怖かった。それはね、おまえが扱いやすくて都合のいい、便利な女だからだよ。そう言われたら、どうしよう。ていうか、こんなこと聞くなんて、面倒な女だと思われちゃったかも。わたしはぎゅっと目をつぶった。
「おまえが世界でいちばん素敵な女性だから、かな」
ふわっと頭を撫でられる感触といっしょに降ってきたのは、そんな言葉だった。おれにはもったいないくらいだよ。えっ、なんていう間抜けな声はイタチのその言葉に飲み込まれた。また彼を見上げるとそこにはさきほどと変わらない柔和な微笑み。かあっと頬に熱が集まるのがわかった。
「だから、堂々と手をつないで歩いてほしいんだ」
大きく頷く以外、どうしたらいいというのだ。