不二にはお姉さんがいるからなのか、私がオシャレのことで迷うとさりげなくアドバイスなんかしちゃったりして憎い。でも不二はちゃんと私のオシャレに気付いてくれるからちょっと嬉しい。
「ねえ、もう夏休みだしネイルしようと思うんだけど何色がいいかな」
「ん、そうだなあ…あ、これかな、ピンク。かわいいね」
 不二は私のマニキュアコレクションでも何個かあるピンクの中から、すっときつすぎない明るいピンクのマニキュアを指した。私のお気に入りのやつだ。学校があるせいであんまり使えてないんだけど。好きな色とかそういうの、改まって言ったことはないけれどたぶん、不二は私の好きな色がピンクで、しかもどんなピンクが好きなのかまでちゃんと知ってる。
「じゃあそれにしよ。不二、マニキュアの匂いへいき?」
「平気だよ」
 不二は私の持ってる漫画を読んでるし、今塗っちゃえ。思い立ったが吉日っていうしね。
「塗っていい?」
「あっ、僕に塗らせてよ」
「ええっ」
「姉さんの手伝ったことあるから、下手じゃないよ」
 だからいいでしょ、って私の話も聞かずに不二は私からマニキュアを奪う。しばらく開けられていないマニキュアはきゅうっと間抜けな音を立てて開き、ツンとした匂いを部屋にばらまいた。不二は繊細な手つきでマニキュアを扱う。
「ほら、手、出して」
 半ば無理やり手を取られ、まるで王子さまがお姫様の手の甲にキスするみたいな体勢になった。なんだこれ。ふたりきりとはいえ恥ずかしすぎる。不二はなんだか嬉しそうに、私の爪に優しくマニキュアを塗る。優しい手つきがくすぐったい。マニキュアを塗ったところが少し冷たくなって、爪の先がきゅっとなるのがまたなんだか恥ずかしい。
「綺麗な、手だね」
 五本に綺麗に塗ったあと、不二はいとおしそうに私の手を撫でた。ああ、そういえばこいつ手フェチだって言ってたな。
「…ねえ、早く反対塗って」
 あんまりにも恥ずかしくなってそう催促した。うんって返事を返すついでに、不二は私の手に唇を寄せた。こやつなんてことを…。私の顔は真っ赤に違いない。あああもう、なんでこうもこいつはこんなに惜しげもなく恥ずかしいことをやってのけるのだ!
「よ、よくできるねそういう…」
「好きだからね」
 君の手も、君も全部。そんな歯の浮くようなセリフに、素直に嬉しくなっちゃうあたり私は相当不二にやられている。