これの続き

あれから仁王くんはちょくちょく数学を教えてくれるようになり、お陰様で私の数学の成績は少しずつだがマシになってきた。先生からも褒められるし、私にとってはいいことづくめである。仁王くん様々だ。何で仁王くんが私なんかに数学を教えようと思ったのかは相変わらず全くもって謎だったけれど。
そうして仁王くんと話す機会が増えて、あの人気者の仁王くんに優しくしてもらって、仁王くんのことを好きにならない方が無理があるのではないだろうか。切れ長の目もセクシーなホクロにも私はドキドキしてしまう。仁王くんが好きだ、と意識してしまった途端私はもう数学どころではなくなってしまった。今だってそう。目の前で二次関数の頂点がどうの軸がどうのと言う仁王くんの姿ばかりに目がいって、話は右から左へなのだ。ああ、格好良い。仁王くんに呆れられたくないから勉強はそれなりに頑張るつもりだけど、こうなってはどうしようもない。
仁王くんの姿に見とれているうちに、ふといつかの仁王くんの言葉が蘇った。そうだ、仁王くんは、数学が出来ない子の方がかわいいとそう言った。じゃあ、私が数学を頑張っても意味がないのではないだろうか。そう考えたところでペンが止まった。仁王くんが心配そうに声をかけてくれたけれど、私は彼の目を見ることが出来ない。
「仁王くんは、さ」
数学出来る子は嫌いなの。その言葉は尻すぼみになって今にも消え入りそうで、私は聞こえてなくてもいいやとそう思ったけど、仁王くんはきちんと聞いていたらしい。
「どしたん」
「ま、前言ってたでしょ、だから…数学頑張ったら…仁王くんに嫌われちゃうのかな、って…」
「違う!」
仁王くんはばんと両手を参考書を叩きつけ、勢い余って立ち上がった。あまりに焦ったような仁王くんに私は驚いてしまって、何の言葉も出てこない。
「俺は…数学できん子が好きなんじゃのうて…その…」
座るタイミングも逃して、仁王くんは立ったまま顔を逸らしてそう濁した。仁王くんが言葉に詰まる姿は初めて見る。ぽかんと彼を見上げると、一瞬目が合ったがすぐ逸らされてしまった。
「俺は…おまんと話がしとうて…それで」
「えっ?」
「だ、だから!好きなんじゃ…おまんが…」
いつもクールな仁王くんが、顔を真っ赤にしている。私は今の言葉も状況も信じられなくてただただぽかんと呆けていた。仁王くんが私を好きだというのが本当なら、今すぐ踊り出したいくらいには嬉しい。それこそ死んだって悔いはないくらいだ。
「みょうじは、どうなん。俺の、こと…」
「す、すきだよ!」
咄嗟に私はそう叫んだ。そうだ、好きなのだ。私は仁王くんがどうしようもなく。心臓がバクバクしている。
仁王くんは目をまん丸にしてしばらく私を見つめたあと、長いため息をついてへなへなと机につっぷした。
「お前さんはずるいナリ…」
「え、ええっ」
「でも、嬉しい。好いとうよ」
ずるいのは、仁王くんだ。私の鼓動はしばらく鳴り止みそうにない。

▼数学駄目子と仁王くんの続き