「やあ、私のフラッグの調子はどうかね」
仕事を一通り終えた私に声をかけてきたのはエーカー中尉だった。優秀だが変わり者と専らの噂だが下っ端の整備士である私にもこうして気軽に声をかけてくれるあたり悪い人ではない。
「ばっちりですよ、中尉殿」
「堅苦しいな、中尉でいい」
中尉は整備されたフラッグを見上げた。精悍な顔立ちの中尉は、軍の女性たちの間ではちょっとしたアイドルだそうだ。それも頷ける。
「ところでだ、君はガンダムについてどう思う」
ガンダム。最近中尉が並々ならぬ執心を燃やすモビルスーツ。それは最早興味を超えて愛、だそうだ。
「えーと…機動性、火力共に申し分ないですし素晴らしい性能の機体だと思います。近くで見てみたいですね。あとは…すごく個人的な意見になりますが…デザインが、いいですね。かっこよくて。あっ、フラッグが格好悪いとかじゃ、ないですよ」
中尉は顎に手を当て考え込むように黙ってしまった。敵機に対してかっこいいなんて言うもんじゃなかったかと焦っていると中尉ははっはっは、となんとも大仰に笑った。
「面白い」
面食らった私を余所に中尉は至極楽しそうだ。
「なまえ・みょうじと言ったな。今夜の予定は?」
へっ?思いもよらなかった中尉の言葉に思わず拍子抜けした間抜けな声をあげてしまった。やっぱり怒らせてしまったのだろうか。まさか夜まで残って仕事をさせられるとか。呆然と中尉の顔を見つめていると、中尉の口が綺麗な弧を描いた。
「食事でもどうかな、ミスみょうじ」
まるで童話の中の王子様のように手を差し出す中尉に戸惑いながらも鼓動が止まない。なにがどうしてこんなことになってしまったのかさっぱりわからなかったけれど、私は中尉に乗せられて恐る恐るその手を取った。
「スイーツのおいしいところで…お願いします…」
「承知した」