彼の部屋は私物が少ない。黒に統一された部屋はあまり大人らしくない私を少しだけ大人な気分にする。彼は隣で煙草を吹かしていた。体が勝負の仕事で本人もトレーニングを欠かさない癖に、愛煙家なのはこれ如何に。
「慎也」
私の呼びかけに彼は視線だけで返事をして煙を吐くだけだった。灰皿に煙草の灰を捨て、それからようやくなんだと口を開いた。
「私にも頂戴」
煙草をねだったのは初めてだったからか慎也は些か驚いたようだった。やめておけと吐き捨てる彼がなんだか面白くなくて、私は懲りずにまたねだる。
「いいでしょ」
「体に悪い」
「あんたが言う?」
「女だろ」
彼は口を尖らせた私の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。機嫌を取ったつもりだろうか。女はいつだって頭を撫でれば機嫌が取れるとでも思ったら大間違いだ。
「ねえってば」
彼はゆっくりとした動作で煙草を灰皿に乱暴に押しつけた。はあ、と呆れるように息をついた彼は私の顎を掴んだ。噛みつくようなキス。ヤニの味。歯列を押し割る慎也の舌使いはまるで獣だ。
「これで我慢しろ」
「…続きは?」
慎也がまた溜息をつく。ゆっくりとベッドに組み敷かれる私。まるで狩られた獲物。慎也にとってはまさにそうなのだろうけど。首筋を吸う大きな獣に私は大人しく食われることにする。