凪斗はたまに、たまにだけど、我を忘れたように暴れたりすることがある。部屋をめちゃくちゃにしたり、ひどいときには自分を傷つけようとしたり。けれどその矛先が私に向くことは決してなかった。今日までは。
「なまえ」 震えた声。震えた手にはガラスの破片。凪斗が割ったものだ。私に馬乗りになった凪斗を、私はただ見つめていた。 「凪斗、」 「きみも僕のことをきらいになるんでしょう、なら、僕は」 わなわなと震える凪斗の手が首元に近づいてきた。しかし割れたガラスは私の肌の上、わずか数センチのところからは動こうとしない。 「私は凪斗を嫌いにはならない」 「嘘だ」 「ほんとだよ」 「嘘だ!そうやってみんな僕から離れていくんだよ!!」 凪斗の重みと、叫びがずっしりと体に響く。私は凪斗に両手を伸ばして白く冷たい頬を包んだ。じっと凪斗の揺れる瞳を見つめる。 「いいよ、好きにして」 「なまえ、」 「いいよ。それで凪斗が満足するならなんだって」 「なまえ、」 「大丈夫」 ガラスが床に落ちる乾いた音が響いた。凪斗の震える手からガラスが落ちたようだ。わなわなと震える凪斗は、ぼろぼろ涙を流しながら頬を包む私の手にそっと自分の手を重ね、私の胸にうずくまった。 「なまえ……」 「凪斗、」 「君を傷つけるなんて、できっこないよ……」 嗚咽が漏れる。私は凪斗を優しく抱きしめた。泣きじゃくる凪斗の背をさする。 「大丈夫だよ、凪斗」 「ごめんね、ごめんね、」 「大丈夫だから」 ごめんねと繰り返す凪斗がまるで子どものように思えた。大きな体の凪斗が乗っかっているせいで体がじんじん痛む。でも、不快ではない。私は子どもをあやすように凪斗の髪を撫でる。明日には、また、きっと笑ってくれると信じて。 |