寒いねと話しかければ寒いねと答える人のいる暖かさ。とはよく言ったもので寒いね寒いねと非生産的な会話に付き合ってくれる柳生の暖かさは心に沁みる。わざわざ冬風の堪える公園のベンチにいるのは私たちなのだが。ダッフルコートをきっちりと着込んだ柳生はこんなに寒いのにしゃんと背筋を伸ばしている。私は猫背。柳生の手に自分の手を重ねた。お互い手袋をしているからいつものようにドキドキしない。
「寒いね」
「そうですね」
何度同じことを言っただろう。それでも柳生は穏やかな笑みを絶やさない。
「早くあったかくならないかな」
「夏には逆のことを言っていましたね」
目を合わせることはしない。子供一人いない冬の公園をただ見つめるだけ。どうでもいい会話をするだけ。息を吐いては白くなるのを面白がってやっていると、肩に重みを感じた。
「柳生?」
柳生が私の肩に頭を乗せていた。こつん、と甘えるように。伏せた睫毛に見とれてしまう。柳生は何度か私の手を撫でたが、返事は寄越さなかった。
「寒いね」
「そうですね、今日は一段と、」
柳生は言葉もなく私の手を握る。私もそれに答えるように、そっと柳生の柔らかな髪に唇を寄せた。


▼なんとなく甘えてくる柳生