「なまえちゃん、受験票持った?」
「持ったよ」
みどうくんがするするとマフラーを巻いてくれる。外れかかっていたダッフルコートのボタンも閉めて、顔にかかった髪まで払ってくれた。今日は英検、昨日はみどうくんちで夜な夜な英検の面接の練習をしてもらったのだ。あれだけスパルタ指導を受けたから、受かるに違いない。うん、きっとそうだ。
「ティッシュとハンカチ」
「持った」
「定期」
「持った」
「カイロは?」
「持った!」
だって昨日ちゃんと準備したし。みどうくんは他にも私に忘れ物がないか考えている。心配性だなあ。
「行き方覚えとる?」
「うん、みっつめの駅で降りて、バス乗って、三丁目で降りる」
「違う、二丁目やろ。駅どこから出るかわかるか?北口やで。南やないで。キオスクあるからって南行ったらあかんで、マックの方に行くんよ。あとバスは三番か四番。もし間違えたら五番なら病院前で降りてコンビニの方に歩いていったらええから。それから帰りはちゃんと反対のバス停に行くんよ」
「うん」
大丈夫、と言ってもみどうくんは腑に落ちないような顔をして近くにあったメモに地図を書き始めた。が、さらさらと書き上げていくみどうくんの手が突然止まった。
「…やっぱり、ボクもついていくわ」
「だ、だいじょうぶだよ!それにみどうくん部活でしょ?」
「せやけど」
「昨日もあれだけ練習付き合ってもらったし、これ以上迷惑かけるわけにもいかないもん」
みどうくんはしばらく考え込んで、まあそこまで言うならと渋々了承した。私が方向音痴でおっちょこちょいだとはいえみどうくんは心配しすぎなのだ。迷子になってみどうくんに泣きついた前科が何度かあるとはいえ。
「じゃあいってくるね」
「…受験票ほんまにある?」
「あるよ、ほら!」
「お財布は?」
「あ」
みどうくんの長いながーいため息が心に刺さる。うう。

▼御堂筋が心配性