今年の夏は、一段と暑い。コンクリートに照り返した日差しが熱気となってまとわりつく。そんな猛暑だというのに私は無性に外に出たくなって、用もないのに外へ出た。
「あ」
一人ぼーっと歩いていると、見慣れた後ろ姿。狛枝だ。白い頭に白いシャツ、よく目立つ。
「やあ」
暑いね、と狛枝は笑った。夏休みとはいえ結構頻繁に顔を合わせていたが、前に見たよりわずかに日焼けしたように見える。
「どこへ行くの?」
「暇だったから外へ出ただけ。あんたは?」
「僕?ああ、僕はね、墓参りにでも行こうと思って。久しく行ってないからさ、そろそろお盆でしょう」
そう言って狛枝は生花を掲げた。菊の花。誰の墓かは想像がついた。恐らく、両親だろう。
「この辺なの?」
「うん、そうだよ」
「…ついてってもいい?」
一瞬狛枝は面食らったような顔をしたがすぐに首を縦に振った。墓参りなんて辛気臭いこと私は全然好きじゃないのに、なんでそんなことを言ったのか私にもよくわからなかった。
10分ほど歩いて、墓地に着いた。寺の裏手には墓石の山。狛枝はきょろきょろと辺りを見回して、両親の墓石を探しているようだった。
「忘れちゃった」
狛枝は笑った。そんなもんなのだろうか。
しばらく二人で探し回って、手入れのされていない墓を見つけた。きちんと狛枝家と掘ってある。雑草は伸び放題。狛枝がうわあと声を上げたが、そんな風にしたのはお前だろう。渋々二人で草抜きに精を出した。玉のような汗が何粒も土に落ちた。
「父さん、母さん、長らく来ていなくてごめんね。恋人を連れてきたよ」
随分と綺麗になった墓石に向かって隣にしゃがむ狛枝が言った。私も腰を下ろして狛枝の横顔を見つめていた。
「信じてくれないかもしれないね。僕、友達いなかったし…」
寂しそうに笑う狛枝の横顔が、夏には不釣り合いだった。
「そうだなまえ、キスしたら父さんたちも信じてくれるかな」
「こんなところで…だめでしょ」
「いいよ、たぶん」
すっと狛枝の顔が近づいてきて、唇と唇が一瞬だけ触れた。お墓の前でこんな真似、許されるんだろうか。狛枝を見ると何もなかったかのように手を合わせている。私も倣って手を合わせ、とりあえず狛枝を産んでくれた二人に感謝の意を表した。