清多夏くん、と僕の名を呼ぶ彼女の声が理性をつんざく。甘い匂い。垂れ目がちの瞳が潤んで実に扇情的…って何を考えているんだ僕は。こんな真っ昼間から。正座する僕にじりじりとにじりよるなまえくんにとてもじゃないが視線を合わせられない。腕には何か柔らかい感触。まだ昼だ、昼だぞ。夜でもけしからんが。
「ねーえ、清多夏くうん。セ」
「駄目だ」
「…まだなにも言ってないよ?」
「言っただろう!」
間延びした彼女の声がちくちくと僕を刺す。果たして彼女はこんなキャラであっただろうか?彼女が意外にもこういう行為を好むことは付き合い始めてから知った。なまえくんが言うには愛し合っているのだから問題ないと。なるほど一理ある、が。まだ高校生の身分だぞ。彼女はみんなしてると言うが僕は信じないぞそんなこと。
「いいかね!僕たちはまだ高校生だと何度言ったらわかるんだ!然るべき年齢になるまで清い付き合いをするべきだと僕は何度も」
「えー、この期に及んで?もうしちゃったからこの際何でもいいよ」
「これから先万が一にということがだな」
「ゴムあるよ?」
「き、君という人はよく恥ずかしげもなくそういう…」
ごそごそとポーチを漁った彼女が…、僕の口から彼女が取り出したものの名は言うまい。
「今日は親帰ってこないからさ」
「それならば余計駄目であろう!」
「私が許すもん」
「しかしだな」
「…あーあ、清多夏くんのことが好きで好きでしょうがないからしたいのになあ。清多夏くんは私のことそんなに好きじゃないからそう言えるのかなあ。悲しいなあ」
「な、」
揺らいだ僕を見てなまえくんは少しだけだがにやりと笑った。謀ったな、初めから薄々感づいていたがやはり謀ったのだな…!
「清多夏くん?」
むぎゅうと抱きしめられ耳元で囁かれた。もう、正直、我慢ができそうにない。
なまえくんの腕をやんわりと外すと彼女は満更でもないように笑ってみせた。艶やかな呼吸をしている。僕は彼女を床に縫いつけ、唇を奪った。
「…はぁっ、清多夏、くん」
「…言っておくが、言い出しっぺは君だからな。あとから文句は受け付けないからな。我慢できなくてもそれは君が誘惑したからのことであってだな、」
「うん、私が言い出したんだもんね。だから好きにしてね」
彼女からのキス。僕たちはベッドに沈み込んだ。明日襲い来るであろう猛烈な罪悪感のことを今だけは忘れようと思った。


▼耐えるが吹っ切れる石丸