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あの後、逃げるように帰ってきてしまった。
ただ、頬についたまつげを取ってくれただけなのに。
研究室に来てもなかなか集中できない。
アスラント文明の研究は早く進めてしまわなければならないのに。
「はぁ…。」
食事やお風呂に入っている時でさえ、ふとした瞬間にあの時のことを思い出してしまう。
そうすると心臓が跳ね上がり、何も手がつかなくなってしまうのだ。
一番ひどいのは寝る前で、布団に入って眠りにつくまでの短い間に絶対に思い出してしまうのだ。
思い出してしまってしまっては、もう眠れない。
眠れないのならば、と研究室に来ているものの研究も進まない。
どうしようもなくて、ため息ばかりが出て行く。
「博士、ため息ついてどうしたんですか?」
誰もいないと思っていた研究室に自分以外の声が聞こえて驚く。
しかも、それが思い出していた人のものであるからなおさら。
「な、な、な…」
「すみません、ノックをしたのですが気づいてもらえなかったみたいですね。」
振り返れば、にっこりと笑う英国紳士がそこにいた。
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