ふりそそぐ青の中で

突然の雨。

慌ててクイーンズバーの軒下に避難したものの、少し濡れてしまった。
みるみる内に雨は勢いを増し、濡れて帰るにも覚悟が要りそうなほど。
ついてないと俺、カズトシはそう思ったが、仕方ない。
この雨が通り雨だと信じて、止むのをこのまま待つことにした。

雨は依然として振り続く。
人通りはない。
こんな雨だ。
皆、家に帰ったか、喫茶店などで雨宿りをしているのだろう。
雨がメロディを奏でる以外、音は聞こえてこない。
一人、世界に取り残されたかのようだった。


滴り落ちる雨を眺めていると、こちらに向かってくる人がいた。
雨を気にする様子もなく、ゆっくり歩いてくる。
黒いジャケットも青いシャツもグッショリと濡れてしまっているのが窺える。
なのに、それを厭うことなく、少し上を向いて歩く様は儚げで、存在感がなかった。

ジッと見ていたからなのか、その人がこちらに気付いた。
どんどんとこちらに近づいてくる。
目の前まで来て、ようやくクイエートだと気づいて驚いた。
近くで見ると髪や服から雨が滴り落ちて濡れそぼっているのがよくわかる。

「すごい雨だね。傘ないの?なら、これ、使って。」

差し出されたのは折りたたみ傘。
持っていたのになぜ使わなかったのだろうか。

「え、でもクイエートが…。」

今更、傘を差してもさして変わらないだろう。
それでも、その傘を受け取るのは悪い気がした。

「僕はもう濡れてるから。それに今は雨に降られたい気分なんだ。」

クイエートは微笑んで俺の手に傘を握らせた。
その手はとても冷たくて、まるで生きている感じがしない。

「あ…。」

ニッコリと笑ったクイエートは、そのまま雨の中へと戻っていく。
降りそそぐ青の中にその背中が消えるまで見送ることしかできなかった。



ふりそそぐ青の中で




END

As You Like Itの和俊さまに相互記念として差し上げたものです。
よろしくお願いします!

和俊さまが『カズトシが家まで送ったらいいのに』と言って下さったので、続き書いちゃいましたv

おまけ

「待ってくれ、クイエート!」

借りた傘を差して、クイエートを追いかける。
雨が傘の中にまで降り込んできたり、跳ねた泥が服にかかったりすることなんて、気にしてられなかった。

「カズトシくん…?どうしたの?」

立ち止まって振り返ったクイエートを傘の中に入れる。
折りたたみ傘は小さい。
二人で入るのには少しキツイ。
向き合えば顔がかなり近くにあって、クイエートの顔が青白くなってしまっているのがよくわかった。

「どうしたの?じゃないだろ。それ以上濡れたら風邪ひくじゃないか。」

ポタポタと止めどなくクイエートから落ちる滴に、タオルを持ってないことが悔やまれる。

「でも…。」

後退って傘から出ようとするクイエートの腕を掴んで引き留める。
掴んだ所から滲み出てくる水にどれだけの時間、雨に降られていたのかと思い、ゾッとした。

「何があったのか、なんて聞かないから、家まで送らせて欲しい。」

しばらく悩んでクイエートは頷いた。
肩を並べて歩く。

雨に閉ざされた傘の中の世界。
さっきとは違い、取り残された感じはしない。

降り続いていた雨あしが弱くなり、ついには先ほどの雨が嘘のように止んでしまった。
雲の合間から次第に日が射してくる。

「クイエート、あれ!」

傘を閉じて見上げた先には、思いがけないものが。

「…虹だ!綺麗だね。」

隣を見るとクイエートが嬉しそうに笑っていた。
滴がキラキラと日に反射して輝く。
それがとても綺麗だった。

END


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