こんな僕でよければどうぞ



「ヘンリー、俺、もう一度奇跡の紳士に戻りたいんだ。」

突然ランド様がそんなことを言い出したことに驚いた。
あの時のことを悔やんで、思い出すのを嫌がってるのではないかと思っていた。

「ランド様?どうしてですか?」

衣装はすぐ用意できる。
仕掛けは、専門家にでも頼めば考えてくれるだろう。

「思ったんだ。あのことがあって街はようやく復興してきた。」

土砂に襲われた街はようやくいつもの日常を送れるようになった。
しかし、観光客は激減したままで、街に活気はない。

「でも、イメージは拭い去れない。あの奇跡の紳士を演じていた時は、奇跡の紳士のショーを見にくる観光客も大勢いた。」

そういえば、そんな物好きな観光客もいたと聞いた。
事実、奇跡の紳士のショーが始まってからは観光客が増えていたのだ。

「楽しいショーにすれば観光客も増えると思うし、街にもお詫びが戻る。何より街にお詫びがしたい。ヘンリー、手伝ってくれるか?」

「もちろんです。ランド様」

それからは必死だった。どうやったら危険ではなく楽しいショーを開けるのか、決めなければいけないことはたくさんあったし、解決しなければならない問題も山ほどあった。


「いよいよですね、ランド様」
「ああ、ありがとう。ヘンリー」

そこには奇跡の紳士の衣装に身を包み、その上から黒いマントを羽織ってスタンバイするランド様がいた。

「いえ。まだ本番も始まってませんよ。」 

緊張なさっているのだろうか、それとも長かった準備期間を思い出しているのだろうか
遠い目をされている。

「そうだな。それに大変なのはこれからだ。頼む、悪いけどこれからもずっと……」

言いよどむランド様には言いよどむだけの思いがある。
ならば、私はそれを一緒に支えるだけだ。

「もちろんです。ランド様」

ランド様は申し訳なさそうに笑う。
私としてはランド様のお側にいられて力になれるならこれほど幸せなことはないというのに。

「では、いってくる。」
「お気をつけて」

さあ、新しい奇跡の紳士の楽しいショーが始まる。

end 





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