唯一頼りのボーダーライン


よく晴れた日の午後。
澄み渡った青空のもと、僕はカズトシくんを引っ張ってレイトン教授の研究室に向かっている。
理由は単純明快。
レイトン教授へのお届けものを受け取ったカズトシくんが、大学前で立ち尽くしているのを見つけたから。
心の準備をさせて欲しいとか言っていたような気がするけど、30分も立ち尽くしていたことを考えれば、待っても無駄と判断した。
そのカズトシくんも今は大人しい。

「失礼します、教授。お届けにあがりました。」

ノックをして研究室に入ると、レイトン教授以外に研究室の資料を読む一人の学生がいた。
容姿は整ってはいるものの、格好から何から平凡な、印象が薄い青年。
次にあっても忘れられてそうなその人物に僕は心当たりがあった。

「デスコールも居たのですね。お茶の邪魔をしてしまいましたか?」

青年をデスコールと呼ぶと三人の動きが止まる。
いや、カズトシくんは部屋に入った時から固まっていたか。

「く、クイエート…?何故デスコールだと?」

レイトン教授がおそるおそる聞いてくる。
単純な理由なのだけど。

「クイエート、君が来るとは予想外だ。知っていれば、違う人物に変装したものを。」

つまり、僕は先程の変装がデスコールだと前々から知っていたのだ。

「あまり、油断しないことですよ。」

変装を解いたデスコールに言う。
でも、きっと治らないのだろう。
それがデスコールの魅力でもあることだし。

「じゃあ、カズトシくん。用を済ませようか。」

「え?いやっ…ちょっ…クイエート!」

レイトン教授の方へカズトシくんを押しやる。
あまりにも狼狽えるカズトシくんにフォローを入れるべきか否か悩みながら、未だに研究室の資料を黙々と読むデスコールの隣に立つ。

「え、えと………こここここれを…………」

「ありがとう、カズトシ。これはお礼だよ。」

どうにか品物を渡すことが出来たようだ。
お礼には地球儀をもらっていた。
いったいいくつもらってるんですか、教授。

「ちょっと待って。」

「クイエート、放せ!」

一目散に逃げようとするカズトシくんの腕を掴み、引き留める。
カズトシくんが行こうとしたところに白い影が。

「やぁ、諸君。ご機嫌よう。」
カズトシくんもデスコール、さらには教授でさえ、紅茶をこぼすほど驚いていた。
僕だって充分驚いた。
何せ彼はモンテドールを騒がした人物、しかも宙に浮いているのだから。

「いったい何をしに来た。」

警戒したようにデスコールが言うけれど、そのセリフは君が言っても良いものではない、多分。
奇跡の紳士はそれには笑って答えない。

なんか、どうしようもない事態になって来た気がする。

しばらく奇跡の紳士とデスコールのにらみ合いを見ていると、突然腕を引っ張られてレイトン教授の研究室から飛び出すように駆けていた。

「カズトシくん!」

僕の腕を引っ張って走っているのはカズトシくんだった。
思わず足がもつれそうになるのをなんとかこらえて走る。

「クイエート、あれ以上あんな所に居たらダメだ!」

確かにあれは危険だった。
あんな所にいても百害あって一利なし。
カズトシくんの判断は正しい。

「ありがとう、カズトシくん。」

教授には申し訳ないが、あの二人を任せるとしよう。
教授がどうにか出来ないなら、他の誰でも無理だ。



唯一頼りのボーダーライン



(後日、教授にあの後のことを聞くと、三人でティータイムを過ごしたらしい。)
(教授、恐るべし。)

END

あとがき

和俊さんに贈らせて頂きました。
ちょっと出演人数が多くてカオスになってしまいました(汗)
奇跡の紳士のネタバレはしていないはずです。




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