それならば、喜んで
僕の大学での専攻は薬学ではない。
薬のことは少し独学で学んだが、調薬なんかは無理だ。
なのに、何で今、僕は薬の調薬をしているのだろうか。
「なー!にゃう!」
「早くしろって?わかってますけどね。一応、素人なんですよ、僕は。」
色々な薬品や器具が置いてある机の上に、ちょこんといる猫。
毛色は薄い黄褐色。
光に当たると金色に見えなくもない。
ちなみに僕は猫を飼ってはいない。
なのに何故猫がいるかと言うと、
「にゃっ!」
「わかってるって。急かさないでください、デスコール。」
この猫はデスコール、つまり元は人間だったらしい。
今朝早く、僕の家にデスコールの執事さんが訪ねてきた。
この猫とある薬を抱えて。
執事さんの話によると、どうやらデスコールは猫化の薬を作ったはいいが、間違って被ってしまったらしい。
その時に口に入ってしまった、ということ。
自分で作った薬ぐらい管理はきちんとして欲しい。
執事さんに解毒剤を作って欲しいと頼まれた僕は、せっせと開発に勤しんでいるという訳だ。
「にぅ……にゃあにゃ。」
「これを混ぜるんですか?どれくらい?」
猫=デスコールは、というと頭はそのままらしい。
僕と一緒に解毒剤がどうやったら出来るのか考えている。
それは本当に不幸中の幸いで、でなければ解毒剤は完成しない可能性のほうが高かった。
何せ猫化の薬を解析する所から始めなくてはいけないのだから。
「にー!」
デスコールが指を開いて、手の平を腕に押し付けてくる。
肉きゅうが気持ちいい。
「5g、ね。200mlに25g入ってるから、40mlか。」
「に。」
そうだ、というようにデスコールが頷く。
猫の姿だと可愛いのに。
スポイトで40ml吸い上げて入れる。
「よし、完成。…成功してるかはわからないですけどね。」
「にゃう!」
何でこうデスコールは自信に満ちてるのだろう。
まぁ、失敗しても僕ではないのでいいけれど。
デスコールを床に下ろして、ブランケットを上から掛ける。
猫に変化した時に服はそのまま落ちていたそうだから、元に戻した時に服は着ていないはずだ。
「じゃあ、飲んでください。」
スポイトでデスコールに薬を飲ませる。
途端に煙が吹き出し、猫の姿が見えなくなる。
煙が全て消え去った時には、ブランケットを被ったデスコールが立っていた。
頭から被っているために顔は見えない。
「はい、執事さんから預かった服です。着替えはバスルームでどうぞ。」
服を受け取ったデスコールは帽子を被り、クロークをひらめかせて着る。
その間で仮面やフォーマルなスーツまで着ているなんて、早着替えにも程があると思う。
「手間を取らせた。」
それだけを言うとデスコールはさっさと玄関に向かう。
元に戻れたら用済みらしい。
「構わないですよ。でも、今度、来るときはお茶をしに来てくださいね。」
返事なく閉まったドアを見る。
さて、片付けをしなければ。
それならば、喜んで
後日、高いであろう紅茶の葉が送られてきました。
END
あとがき
タイトルのそれならば、というのはお茶をするなら、です。
クイエートはティータイムが好きなので、少し親しくなれば誘います。
とはいえ、人見知りのクイエートの少し親しい友達になるのは難しいですけど。
螺涼さんに捧げます。
リクエストありがとうございます!
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