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暗闇を照らす蝋燭の明かりが揺れて、そこに映し出される影もゆれる。
影の主は仮面とマントを纏った、高き志を抱いた一科学者、デスコールであった。
ソファーに座って足を組み、紅茶を飲む様は気品に満ち溢れている。
更にもう一口、紅茶に口付けようとした時、バタンと大きな音を立てて扉が開かれた。
入って来たのは黒いフードつきのコートを着た、先ほどまでタイニーロンドンの夜を騒がせた怪盗クラウンだった。
よほど慌てていたのか、呼吸をするたび大きく肩が上下する。
デスコールがいることに気づいているのかいないのか、彼に目線は向けない。
「君がそんなに息を切らすとは珍しいな。そんなに今日の仕事は大変だったのか?」
揶揄するようにデスコールが言うと怪盗クラウンはようやくデスコールのほうを見た。
「……デスコール。」
大きく溜め息を着き、デスコールと向かいのソファーに座る。
タイミングを見計らったかのように、デスコールの執事が紅茶を怪盗クラウンの前に置いた。
「君の言う通りだな。レイトン教授とその助手2名。侮れない。」
苦笑混じりに告げたのは、先ほどの犯行での事だった。
「そうか。彼らに追いかけられたのか。それにしては傷ひとつなさそうだが?」
全身を頭から足先まで怪盗クラウンには傷一つどころか、汚れすらない。
「君の発明が役に立ったからね。傷?あの英国紳士が人を怪我させるようなことしそうにな……あぁ、あのお嬢さんかな?」
不思議そうに怪盗クラウンが問うが、デスコールはただ不機嫌そうな雰囲気を醸し出すだけだった。
「そういえば、終わったのか?」
嫌な空気を断ち切ったのは、意外にもデスコールのほうだった。
ただ、その内容は先ほどの質問の答えでも無ければ、話の繋がりさえも見えないものだったのだが。
「一応は、な。だが、他に出てこないとも限らない。だから、まだ終われない。」
そう答えた怪盗クラウンの声は淡々としたものだった。
それに対してデスコールは何も言わない。
その後はただ沈黙のみ。
お互い何も話さずに銘々に時を過ごした。
END
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