心臓稼働条件

失敗だったと思う。

何が、と言われると、クイエートをピアノ連弾に誘ったことだ。
クイエートがピアノがあまり得意ではないみたいだった。
だからと言って、クイエートに教えるのが嫌というわけじゃない。
クイエートは飲み込みはよくて、教えるとすぐに理解してくれる。
教えるほうとしては、楽だしやりがいがあった。

じゃあ、何が悪かったというと、

誘った内容、

つまり、連弾そのものにあった。


連弾は初めてじゃなかった。
他の人とも行ったことがある。
けれど、何なのだろう?

すごくドキドキする。

クイエートとの位置がとても近いのだ。
一緒に弾きながら、横目でそっとクイエートの顔を覗き見る。
睫毛、意外に長いなぁ。

こうやってまじまじと近くで見るなんて初めてだ。
クイエートがピアノを真剣に弾いていて、僕に気づいてないから出来ることだけど。

クイエートの唇がぷるぷると潤っている。
緊張すると唇を舐めるクイエートの癖のおかげ。
いつもその唇が僕にキスをするのだと思うと、恥ずかしくて目を逸らす。

そういえば、肌も綺麗だよなぁ。
髪もさらさらだし、指も長い。

そんなのを見ていたら僕の心臓がなんだかすっごく速くなる。


二人で弾いている途中で、クイエートが間違ってることに気づく。

「クイエート、ここ違うよ。ここはクレッシェンドがあるから、どんどん強くしていかなくちゃ。」

楽譜にある記号をクイエートに指し示す。
クイエートは楽譜をジッと見た後、僕を見上げて拗ねたように言う。

「してるつもりなんだけどなぁ?……むずかしい。」

クイエートが見上げたことで顔が近くなる。
顔に熱があつまるのがわかった。

「……ミズタニくん?どうしたの?熱?」

クイエートが心配そうに覗き込んでくる。

「な、なんでもないよっ」

平静に答えようとしたのに、どもってしまったら意味がない。
更に顔が熱くなるのが分かる。

これじゃごまかせない。


「ミズタニくん、僕ね、すっごく緊張してるんだ。ピアノは得意とはいい難いし、ミズタニくんに格好悪いとこは見せたくないし。なのに、ミズタニくんが近くにいると心臓が凄くドキドキする。」

クイエートが何を言いたいかわからない。
けれど、優しい笑顔になんだかホッとする。
クイエートの手に導かれてクイエートの胸に触れると心臓の動きが速いことがわかる。

「クイエート、速すぎだよ。」
「仕方ないじゃない。ミズタニくんの近くにいるんだもん。好きな人にドキドキするものでしょ?」

二人で笑いあう。
なんだか、クイエートもドキドキしてるんだと思うと安心した。


心臓稼働条件


(君が僕の心臓を速くする)

END





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