あたたかさにふれて


寒い冬は嫌いだった。

餓えている子供にとって寒さは命取りだったのだ。
一度眠ってしまうと次に起きられる保証はなかった。
必死に布や紙切れを集めて丸まっても暖かくはならない。

また、暖かそうな家の灯りが無性に悲しくなる。

さらにもともと体温が低い僕は酷い冷え症に悩まされた。
痛くて痛くて仕方なかった。

寒くて、痛くて、ひもじくて、寂しくて……


「クイエート?どうしたの?」

優しい声と暖かさにハッと意識を取り戻す。
あまりの寒さにあの時の事を思い出していた。
そんな時に、ミズタニくんを見つけて思わず背後から抱きしめたのだった。

「クイエート?」

抱きしめる力を強めると戸惑うように名前を呼ばれる。
だけど、暖かさもその声でさえも溶けて消えそうで。
これが夢ではないと確かめさせて。

「お願い、もうちょっと。」

肩に顔を埋めると頭を撫でられる。
それでさえ泣きそうに愛しいとミズタニくんは知らないだろうな。

「冷たっ!クイエート、指が氷みたいだよ。」

冷えた指にミズタニくんの暖かな手が触れて、自分の冷たさを思い出す。
そして、奪われていくミズタニくんの体温にも。

「ご、ごめん。冷たいよね。」

慌てて腕をはなして離れる。
これ以上ミズタニくんの体温を奪うわけにはいかない。

「ありがとう。ひき止めてごめんね。」

そうだった。
たまたま通り掛かったミズタニくんに抱きついたのだから、ミズタニくんにも用事があったに違いない。
ああ、失敗した。

「ちょっと待って、クイエート。離れると寒いよ。」

していたマフラーの端を掴まれる。
それ以上下がれなくて、ミズタニくんの真意がわからなくて固まる。
寒いって、だからこれ以上体温奪わないようにしたのに。

「もう少し抱きしめてて、ってことだよ。」

マフラーに真っ赤になった顔を隠しながら言われた言葉に僕も顔が熱くなる。
嬉しくなって思いっきりミズタニくんを抱きしめた。



あたたかさにふれて


(もう戻れない)

END



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