とびきり甘いあの人の

「ん……」

ぬくい。
すっごくぬくい。
なんかおっきくてぬくいものが近くにある。
なんだろな?
あたたかくてきもちいい。
あぁ、もうなんでもいいかなぁ。
そう思ったけど、動こうとしても動けないことに気づく。

「……?」

目を開けると灰色の布。
なにこれこんなのあったっけ?
そして気づく。
腰に回る腕。
髪にかかる吐息。

(ちょっと待て。さすがにおかしいから!)

恐る恐る顔を上げると、そこには幸せそうに眠るクイエートの顔が。

「……っ!?」

ええ!?
なんでなんで!?
クイエートに抱きしめられて寝てるの、俺ぇ!?

「……ん。」

ごそごそ動いているのが気に入らなかったのか、さっきまでよりも強く抱きしめてくる。

「クイエート、クイエート!起きてくれ!」

さすがに大きな声を出したら目が覚めたみたいで、上半身を起こして俺を見てきた。
その表情がいつもとは違って無表情でなんだか怖い。
起こして怒らせたか?なんて考えていたら、上半身を俺の上に伏せて寝る体制に入ってしまった。
何の事もない。
クイエートはただ寝ぼけていたのだと理解する。

「ちょっ!クイエート、おもい!」

クイエートの肩を押すが、ピクリともしない。
それどころか肩に顔を埋められて、首筋に吐息が当たってくすぐったい。

「いっ……!ぎゃっ!」

首筋にピリッと痛みが走った。首筋に歯が当てられ咬まれているのが分かる。
甘咬みだから痛くはないが、変な感じがする。
と思ったら、いきなり肩のところでクイエートが笑い出した。

「ははっ!ぎゃっ、てそれはないでしょ。」

何がおかしいのか笑い続けるクイエートに腹が立ってくる。
まだ俺の上にいるので、何も出来ないけれど。

「ごめん。朝ごはんにしようか。作るから、顔を洗っておいで。何ならシャワーを浴びてもいいし。」

ようやく笑いの収まったクイエートは涙を拭い、立ち上がる。
そして、黒いシンプルなエプロンをつけ、料理を始めた。
その後ろ姿を眺めながら洗面所に向かう。
冷たい水で顔を洗うと、気持ち良かった。
洗面所から戻るとキッチンからはいい匂いがしてきた。

「後、スープが暖まったら終わりだから、ちょっと待ってね。」

テーブルの上にはサニーサイドアップにカリカリのベーコン。
サラダに焼きたてのパン、もちろん紅茶も。
デザートにはフルーツたっぷりのヨーグルト。
そして、クイエートの手にはトマトスープ。

「さ、座って。いただきます。」

座って食事の挨拶はしたものの、クイエートの前にはコーヒーのみ。
つまり、さっき言った豪華な朝ごはんは俺の前にしか置かれていない。

「ん?あぁ、気にしないで食べて。僕は朝は食べられないんだ。」

食べないのだったら作って貰って悪かったんじゃと思いつつも、クイエートの笑顔におされて食べる。

「そう言えば、昨日はどうしたの?」

一瞬何のことだかわからなかったけど、昨日いつの間にかクイエートの部屋に寝ていたことを言ってるんだと気づく。
昨日怪盗クラウンと遭遇したことや、いつの間にか気を失ってしまったことを話した。
すると、にこにこ笑っていたはずのクイエートの顔がどんどん険しくなっていった。

「大丈夫?何もされてない?痛いとか、気持ち悪いとかは?」

矢継ぎ早に質問を投げ掛けられる。
それに困惑しながらも、首を横に振ると安堵の笑みを浮かべた。

「気をつけてね。夜は特に危ないんだから。」

女じゃあるまいし、とは思ってもあんなことがあった後では説得力がない。
ただ黙って朝ごはんを口に入れた。
ふと顔をあげるとこっちを見て嬉しそうに笑う顔が見えた。
顔が熱くなって思わず顔を伏せる。



とびきりあまいあのひとの



(……笑顔が苦手)


END



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