空ろの残り香(子犬様より 相互&共闘記念)



かつて母の様に慕った女性。
今ではその禍々しいまでの巨大さと異形の像が、ひどく心に突き刺さる。

「ラケル…博士……」
ココロが呟く。
その母だったモノに既に意思は無い。
あるのはアラガミ化してしまった際の巨大な体躯と、まるでオモチャの様に繰り返される母の声の紛い物。


終焉の残滓。
その名の通り、終焉を迎えそうになった世界に生まれ落ちた意思の無い残体だ。

『彼女』を前にココロは神機を握りしめ対峙している。
そのココロの横に立つのは、同じブラッドのアルト。

「ココロ…」
優しく問いかけるアルトの声に、ようやくココロは決心した。

「うん。行こう…!」
二人同時に勢い良く高台から飛び降りる。
クレイドルの人達から聞いた。かつてここは終わりを迎えそうになった場所、エイジス。そこに二人は降り立った。
意思なき人形に終わりを告げる為に。



激しい戦闘が繰り広げられる。
攻めてはいるはずなのに手応えが無い。消耗するココロをお構い無しに『彼女』の猛攻は続く。

『ココロさん! バイタルが低下しています! 気をつけて下さい!』
オペレーターのフランから怒号が飛んでくる。
このままではマズイと携行品に手を伸ばした時だった。
後ろから音色の様な声を響かせながら小型種アラガミのシルキーが爪を立てて迫って来ていた。

「っく!」
いつの間にか囲まれている事に気付いたココロ。だが遅い。

間に合わないと思い、目をつぶった時。
銃声が二度三度鳴り響き、目の前のシルキーが悲鳴を上げ倒れた。
それと同時にいつの間にか身体が癒えている事に気づく。

「ココロ! サポートは任せて、君は終焉の残滓に集中して!」
少し離れた場所で、残るシルキーを斬りつけながらアルトが叫ぶ。
どうやら彼が銃撃で小型を倒すと同時に回復弾を撃ってくれたようだ。

「あ…どうも」
少し照れながら礼を言うココロ。
ここまでされたなら応えない訳にはいかない。そう思い目の前の残滓に向かって走る。

力を溜め、スピアを展開状態にしながら真っ直ぐ駆け抜けるココロ。
今でも『彼女』の温もりは覚えている。それが例えアラガミに支配されていたが故の行為だったとしても、確かにあの時の穏やかな声色に愛を感じた。
その母の想いを意思なき人形が弄ぶというのなら、自分が何度だって倒すのだ。


「はぁぁぁぁっ!」
駆けた勢いのまま残滓の頭上目掛け飛び上がる。
そのまま全力の突きを残滓の頭へと繰り出した。

そこから連続で突きを繰り返す。
一突き一突きを急所に突き立てる度に、同じほどの痛みが胸に刺さる。
その痛みが未練がましい自分を責め立てる。それでも。


「これで、トドメっ!!!」
最後は全身の力を込めて。
身体ごと前進しながらの突きは残滓の頭に風穴を開けた。

耳をつんざく様な叫び声の後、ズシリと音を立てて崩れ落ちる残滓。
それと同時にココロは地面に着地した。

「おっとと…」
体力的にも精神的にも疲労が影響したのか、ココロは少しふらつく。
ふらついた矢先、背中に温かい感触を覚え振り返ると、アルトが自分を支えてくれているのが目に入った。

優しく微笑むアルト。距離が近いせいか、ココロは思わず赤面する。

「…よく頑張ったね。ありがとう、ココロ」
そういうアルトの表情は優しく、そしてどこか悲しい。

そこでようやく自分が思ってた以上に他の人間も心を痛めていた事に気づく。
自分だけが未練がましいなんて思っていたけれど。


そんなアルトに何か言わなければという焦燥感に駆られるココロ。しかし、うまい言葉が見つからない。

「…お疲れ様! またよろしくね」
いつの間にかいつもの爽やかな表情を浮かべながら笑うアルト。

その表情に有無を言わさぬモノを感じたココロは、他の言葉を飲み下し代わりに感謝の意を込めて優しく微笑んだ。

「うん。…えっと、お疲れ様」
一先ずの終わりを迎えた二人は、そのまま物悲しくも温かい笑みを浮かべあっていた。

→おまけ


[#prev] [next♭]


top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -