私立雷門学園女子中等部
ここ、私立雷門学園女子中等部は所謂女子サッカーの名門で、サッカー特待生枠を持つ数少ない学校である。学力も家柄も伴わない、あたし――松風天馬がここに入れたのはそのためだ。つまりあたし以外の殆どは、家柄や学力に長けていると言うことだ。そして、その家柄や学力だけじゃなく、容姿さえ麗しい人がいる。
「きゃー!神童様と霧野様が一緒に登校なさっているわ!」
「お二人とも麗しいですわ〜!」
ちょうど門をくぐり抜けた2人。神童拓人先輩と霧野霧野蘭丸先輩だ。彼女らこそ、この学園の二大麗人で、優れた家柄、学力を持つ完璧人間だ。完璧と言うからには何でも出来て、フェンシングや乗馬やクラシックが趣味の神童先輩と、茶道華道日本舞踊を嗜まれる霧野先輩は本当に非の打ち所がない女子の鏡だ。今も多くの女子生徒に囲まれて、きゃあきゃあと持て囃されている。あたしもあの輪に入りたいんだけど、家柄も学力も容姿も良くないあたしにそんな勇気はない。
ぼーっとして、お二人を見ていたら、どんっと誰かにぶつかった。
「あぶねーな、ぼーっとしてんなよ。木偶坊。」
「すっ…すみません!」
振り向くと、そこに居たのは倉間典人先輩だった。倉間先輩は小柄なことから、神童先輩たちとはまた違う意味で人気があるんだけど、ちょっと怖くて近寄りがたい。
あたしが頭を下げると、倉間先輩は神童先輩たちの方を見ながら気に入らなそうに声を上げた。
「またお前神童を見てたのか、どうせ部活で好きなだけ見れるじゃねぇか」
倉間先輩の言葉にギクッと硬直する。そう、あたしは神童先輩が好きだ。というか、憧れている。そして、神童先輩も霧野先輩も、ついでに言えば倉間先輩も、同じサッカー部。別に毎日放課後には会えるんだけど、部活時のジャージ姿の神童先輩と普段の制服の神童先輩は一味違うわけで。
「だってやっぱりいつ見たってかっこいいじゃないですか!」
「諦めろ、お前と神童じゃ身分が違いすぎる。」
その言葉にはっとなる。倉間先輩には、あたしが神童先輩に憧れているのがバレているみたいだ。私が黙って俯くと、倉間先輩が背中を向けて呟いた。
「…ま、まぁ…お前が振られたら、あたしが慰めてやらないこともないけどな…」
「ふふ、ありがとうございます。」
倉間先輩の言うことは厳しいようで、最後にこうして優しい言葉をかけてくれる。不器用だけど優しいひとだなと思う。そんな倉間先輩に、あたしは笑って返した。
キーンコーンカーンコーン…登校時間を示す予鈴がなる。本鈴までに教室に入らないと、遅刻扱いになる。
「チッ…。遅刻したらお前のせいだからな!」
倉間先輩は吐き捨てるように言うと、スカートが風に靡いて捲れそうになるのも気にせずに猛スピードで走って行った。あたしもその後を追うように昇降口へ向かった。
本鈴と同時に着席すると、少し後に担任の男性教師がが入ってきた。
「今日は、時期外れだが転校生を紹介する。…剣城さん、おいで。」
急な出来事にクラスがざわつく。となりの席の西園信助は、少しミーハーなところがあるからか興味津々だった。
ガラッと扉が開き、入ってきたのは真っ白な肌に、細身の長身、長い睫毛の美少女だった。わたしは息を呑む。
「今日から君たちのクラスメートになる剣城京介さんだ。みんな、仲良くするんだぞ。」
剣城さんは何も喋らなかったけど、凄まじい眼力だった。席に案内された剣城さんをみんなが目で追う。転校生が珍しいこと以上に、その容姿と目に惹かれたんだ。
彼女の転校、それがわたしたちや学園全体を大きく揺るがすことなど、まだ誰も知らない。
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