2人のメロディー

放課後、忘れ物を取りに教室へ戻る途中、天馬はぴたりと足を止めた。どこからか、ピアノの音がしたのだ。天馬は音のする方へ、まるで何かの引力によって引き寄せられるように、歩いていった。
音はやはり、音楽室からだった。基本怖がりな天馬だが、このときに七不思議だとかを思い出すことはなかった。まるでピアノの音色の魔法にかかったように、扉に手をかけていた。

扉を開けると、そこには大きなグランドピアノがあり、その前には天馬の予想通りの人物が座っていた。天馬は演奏の邪魔をしないよう静かに音楽室に入る。

窓際に無造作に寄せられた椅子に座ると、ちょうどそこからは神童がピアノを弾く姿がよく見えた。伏し目がちに楽譜を見つめ、鍵盤をなめらかに指を滑らせる神童に、天馬は釘付けになった。

やがて演奏が終わると、天馬は無意識に拍手を送っていた。

「天馬…来ていたのか。」

拍手でようやく天馬に気付いた神童は立ち上がると、楽譜を片付けながら天馬に声をかけた。

「あっ…はい。ピアノが聞こえたからもしかしたらキャプテンがいるんじゃないかと思って。勝手に入ってすみません…」

天馬が辿々しく答えると、神童はクスクスと笑った。

「構わないさ、いつかお前に聴かせたかった曲だ。」

そう言って神童はまとめた楽譜を天馬に差し出した。
見れば手書きの楽譜のようだった。

「…これは?」

「お前をイメージして作ったんだ。」

「えええええっ!?」

さらりと言う神童に対し、天馬は大袈裟に見えるくらい驚いた声を上げた。神童は面白がるように目を細めて笑い、窓の外を見た。

「お前と出会うまで、俺の五線譜はずっと白紙だった。そこに音をくれたのはお前だ。俺はお前からもらった音を形にしたんだ。」

神童の言葉に、天馬は首を傾げながら困ったように眉を下げた。

「えっと…意味がよくわからないです…」

「お前が好きだって気持ちを、この曲に込めたということだ。」

「えええっ!?キャプテンがっ…?」

再びさらりと言う神童に、天馬は目を見開いて声を上げた。そして俯くと、落ち着かないかのように自分の手を握ったりさすったりし出す。

「どうしよう…えっと…おれも…キャプテンが大好きです…だからうれしすぎて…なんて返したらいいか……」

天馬はばっと顔を上げ、頬は赤らみ、潤んだ目で神童を見つめると、ぎゅっと拳を握りしめた。
「えと…おれはキャプテンみたいに作曲とかできないし形にできないけど、それでも!キャプテンへの気持ちは同じです…!」

恥ずかしさで爆発しそうになりながら天馬は目を瞑ると、突然頬に温かいものが触れた。ゆっくり目を開けると、神童が天馬の頬を撫でていた。

「お前にはもう、形はないがたくさんのものをもらってきたよ。」

神童は天馬の頬から手を離すと、少しだけ顔を近付けた。

「天馬、もう一度目を閉じてくれないか?」

神童に言われて、天馬は不思議そうに目を閉じた。閉じた瞬間、もしかして、と次に起こることを予想して思わず拳を握る。
神童は天馬の肩に手を置くと、ゆっくり唇を重ねた。重ねるだけ、それなのに互いの体には熱が走る。ほんの数秒で神童が唇を離すと、お互い同時に目を開けて視線を交わした。

「天馬…これからは、お互い与え合うんじゃなくて、お前と、色々なものを作っていきたいんだ。」

「…!、っはい!拓人さんっ!」

天馬は頷いて、もらった楽譜を握り締めながらはにかんだ。
2人で紡いでいく音楽は、まだ始まったばかりである。


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臭くてちょっと恥ずかしいんですが、これが一万打の拓天ってことで。
みつおさんとおぶ氏のお二方とも拓天をリクエストしてくださったのでまとめてしまいました。申し訳ないです。
私の中の神サマはくっさい台詞をさらっと言うような人であることをこのお話でだいぶプッシュしてしまいましたね。お恥ずかしい。
幸せ拓天かわからないですがお二方ともリクエストありがとうございました。これからもいい加減に塩をよろしくお願いします。


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