デートしないか
※南沢高校三年生 天馬高校一年生
久しぶりの南沢さんからのメール。南沢さんからのメールは2週間ぶりだ。といっても元々そんなにたくさんメールしていたわけでもないんだけど。
それで、そのメールの内容が『デートしないか?』の一文。タイトルも無ければ、絵文字も顔文字もない淡白なメール。おれの周りの人はだいたいこんなメールなんだけど、南沢さんも普段からこういうメールを送ってくる。
デートって急に言われても、南沢さんとおれは、中学の時に付き合って自然消滅している。きっと遊ばれてたんだろうな〜と思ってショックはなかったけど、別れたっぽい雰囲気になってからも南沢さんからは時折くだらないメールがきた。だけど会うことはなかった。
それが今更、何の用だろう。気になったおれはすぐに返信をした。
『お久しぶりです!(^o^)
日にちにもよりますが大丈夫ですよ〜』
本当は、デートなんて言われて少し動揺していた。だけどそんなことバレたらまだ好きみたいで恥ずかしい。だから普段通りに顔文字混じりのなんでもないような返信をしてやった。南沢さんはマイペースだしそんなに携帯もいじらない人だから気長に待つ気でいたけど、思いの外すぐに返信がきた。
『次の日曜日、河川敷の駅に1時。
バイトとかなら休んで来い。』
南沢さんは昔から強引なところがある。相変わらずだなぁと思いながら、返信を打つ。
『バイト無いんで大丈夫です!
楽しみにしてますね(^▽^)』
送信してから、ベッドに伏せる。先程みたいに早い返信はなかった。マイペースか相手からの来るかわからないメールを待つ間、おれはさっきのメールを見返す。
南沢さんはなんで急に呼び出してきたんだろう。河川敷の駅と言うことは、電車でどこか遠出するかもしれない。今更2人で遠出などして何になるんだろう。こんな言い方失礼だけど、どんなにメールしても、南沢さんに会えてない間に、おれの中に南沢さんを忘れようとする動きがあった。だから本当のことを言えば会いたくない、はずだった。だけど、何故か、会うことでまた付き合えるんじゃないかという淡い期待を抱いてるおれがいた。それを認めたくないおれは一旦携帯を見て返信が無いのを確認すると、多分来ないと判断すると、枕元に携帯を置いて眠りについた。
あれから何も連絡もないまま日曜日を迎えることになった。期待なんてするだけ無駄と言い聞かせながらも、秋ネェが買ってくれた一張羅をおろした。
待ち合わせの場所には5分早く着いた。だけどそこには既に南沢さんが待っていた。
「よぉ、久しぶりだな。」
南沢さんは、俺に気付くと軽く手を上げた。付き合ってた頃と変わらない態度。なんとなく、気持ちがもやもやする。
「どうも、」
南沢さんの私服はいつもお洒落だ。付き合ってた頃に着ていた服も格好良かったけど、今日の格好はそれ以上に格好良い、大人っぽい感じだ。大学生だと言っても通じるだろう。そんな南沢さんに軽く会釈すると、横に並んだ。昔は身長なんか変わらなかったのに、今は少し見上げてしまう。
「どうした?上目遣いなんかして。なにかねだってんのか?」
「ねだってないです。それより、早く行きましょう。」
南沢さんにからかわれて、目を反らして、そるから駅構内へ歩き出した。南沢さんはクスッと笑うと、おれの後をついて来た。こうやって南沢さんにからかわれると本当に昔を思い出す。そうしてまた、昔みたいになることを期待する自分を否定する。
つかつかと進んで券売機の前に立つが、目的地がわからない。「どこいくかわからないんだから勝手に動くなよ。お前が行きたいところがあるなら、別だけどな。」
「すみません…」
挙動不審な俺の後ろから、すっと、南沢さんの腕が伸びてきて、券売機を操作した。おれは流されるままにそれを見ていたから、お金は南沢さん持ちになってしまった。
「切符、払います…!」
「いいよ、俺が誘ったんだ。後輩は素直に奢られろ。」
南沢さんは切符を二枚取ると一枚をおれに押し付け、おれの腕を掴んで進んだ。引きずられながら改札を通りながら、"後輩"という単語がやたら頭に引っかかった。
電車はすぐに到着した。おれたちは乗り込むと、車内はガラガラだったので、とりあえず座席に座った。おれと南沢さん、その間に2人分の荷物。それ以外乗客のない電車は休日の昼とは思えない、何か非日常的なものを感じた。
「お前変わったよなぁ」
車窓から見える景色をながめていた南沢さんが口を開いた。
「どこがですか?」
「さっきからかった時の反応とかな。昔ならすぐに顔を赤くしてたじゃないか。…それとも、今日元気がないだけか?」
南沢さんの言葉にどきり、とする。確かにおれは変わった。大人になったかもしれない。だけど今日、普段より元気がないというのも、多分ある。
おれが答えられないでいると、南沢さんは頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「出来れば今日は、昔みたいな馬鹿なお前が見たいな。」
「馬鹿って…ひどいです!」
南沢さんの言葉に思わず声を高くして抗議を入れる。それを見た南沢さんは鼻で笑うと頭を小突いてきた。
「やっと昔の顔になったな。」
そう言った南沢さんは目を細めて、何か懐かしむような柔らかい笑みを浮かべていた。その表情に、おれは一瞬息が出来なくなった。
「……っ…そんなかお、ズルいです。」
「素直にかっこいいですって言って良いぞ。」
「言ったら調子に乗りますよね?」
「昔は素直に、南沢先輩かっこいいですっ!なーんて言ってたのになぁ…」
「中学生って素直ですよね、高校生に比べたら」
「俺は変わって無いけどな」
それからしばらく、南沢さんと昔の話をした。と言っても昔のおれたちの関係には一切触れなくて、部活とか、学校とか、今みんな何をしてるかとか、そういう、ほんと普通の先輩後輩の会話。
やがて、ある駅に着くと南沢さんがおれの手を引いた。
「降りるぞ。」
「えっ、は、はい。」
リードを引かれる犬のように着いていくと、そこは一番近い海の見える町だった。
おれのことはお構いなしに進む南沢さんに戸惑いながら歩けば、数分後には海の見える公園にきた。
「…南沢さん…?」
どうしてこんなところに連れてきたのだろう、という意味を込めて南沢さんを見上げる。南沢さんは黙ったままおれの右手を掴むと、ポケットから何かを出して、おれの指に嵌めた。
「…今日、俺の18歳の誕生日なんだ。」
「えっ、おめでとうございます!知らなかった…ごめんなさい何も用意してないです…」
「物は要らないからいいんだ。で、18歳ってわかるよな?男が結婚出来るようになる年齢だ。」
「はい。」
「だから、天馬。俺と結婚しないか?」
「はい……………えっ?結婚?」
思わず返事してしまったけど、結婚?つまり南沢さんとおれが夫婦に?
「南沢さん、おれ…」
「わかってる。お前まだ16だもんな。お前が女子なら今すぐに結婚したいところだが、そうもいかない。だから、お前が18になるまで待つから、婚約しよう。」
「そうじゃなくて、日本…」
「それもわかってる。だから籍は入れない。ただ、俺とお前の中に結婚したっていう認識があればいい。それで一生傍に居てくれたら良いんだ。」
南沢さんの目は真剣だった。デートだなんて呼び出されただけで驚きだったのに、いきなり婚約だなんて、急すぎる。それにおれは南沢さんとは自然消滅したものと思っていた。
「…そんな…今まで恋人らしいこと、ずっとしてなかったのに…」
「もう終わったと思ってたのか?…悪いな、2人分の指輪を買うのにバイトしてたんだよ。俺は神童んちみたいに金持ちじゃないからな。」
南沢さんは笑うと、おれに付けたのと全く同じ指輪を右手に嵌めて見せた。
「形だけでもマジっぼくな。」
そう笑った南沢さんはおれが見たことないくらい幸せそうに笑っていた。
おれはようやく、南沢さんがおれを本気で愛してることを知った。
「…おれ…ずっと南沢さんに遊ばれてたんだと思ってました…」
「おいおいお前の中の俺は最低だな。」
「すみません…でも…そう思ってても南沢さんのこと好きで好きでたまらなくて…今日だって、おれたちもう終わってるんだと思いながら、半分は期待しちゃってて…」
そこまで言ったとき、南沢さんがおれを抱き締めた。優しく、宝物を扱うみたいに。
「じゃあ、期待以上の収穫だな?」
「ふふっ…そうですね。」
おれは南沢さんの背中に腕を回して顔を胸に埋めた。ずっと不安で仕方なかったもの全てが南沢さんの体温に溶かされていった。
「約束な。二年、待ってるからな。」
「当然です。おれは今日まで待ってたんですから。」
そしておれの心は南沢さんの口付けで溶かされていった。
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5000打企画です 結局デートシーンが電車だけになりました…なんという…
普通に買い物とか外食はありきたりかなーと思ってこうしたんですが要素少なすぎましたね…書き直し受け付けます
とりあえずみゆき様、リクエストありがとうございます!
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[mokuji]
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