太陽と風の詩2

天馬が太陽と出会った一週間後。天馬は剣城の兄優一の見舞いに行ってきた。相変わらず元気そうな優一に安心しながら、病院を出ようとする。優一と話し込んでいたら、もう外は暗かった。車椅子を出して途中まで見送ると言う優一の好意を丁寧に断って、病院の廊下を1人で歩いていると、中庭の方から規則的な音が聞こえてきた。すぐに何の音かわかった天馬は中庭を覗く。そこでは、病院のパジャマを着た少年が1人でリフティングをしていた。見覚えのある姿に天馬は駆け寄る。

「ねぇ!久しぶり。また会ったね!」

天馬は相手の正面に回ると、にこりと笑った。太陽は天馬に気付くとリフティングを止めてボールを脇に抱えた。

「天馬!また会えて嬉しいよ。」

にこりと笑えば、天馬も頷く。

「うん!…えっと…名前、聞いてなかったよね?」

「そうだっけ。ああ、僕は雨宮太陽。天馬のことは知ってるよ。ホーリーロード、見てるからね。」

「そうだったんだ!」

中継越しに知られているのに、天馬は有名人にでもなったような感じがした。天馬が照れくさそうに笑うと、太陽は再びリフティングを始めた。

「こないだ大丈夫だった?家族に怒られたりしてない?」

「うん、心配はさせちゃったけど。太陽は…ここに入院してるの?」

「そ。だからたんまり叱られちゃった。」

「そっか…太陽はどこか怪我してるの?」
太陽が怒られたと聞いて少し申し訳なくなる。だが太陽はニコニコしながらリフティングを続けた。

「ううん。病気だよ。」

「病気!?」

天馬は声を荒げたが、太陽は何でもないように流した。

「うん、まぁ検査入院なんだけどね。」

「けんさにゅういん…?」

「検査するために入院してるんだ。」

「じゃあすぐ退院するんだね?よかったぁ。」

天馬はほっと肩を撫で下ろした。太陽は終始笑みを貼り付けていた。

「それより天馬、僕、三階に入院してるんだ。今日はもう暗いけど、たまにで良いから遊びに来てよ。サッカーも、夕方になら付き合ってあげる。」

「夕方?それならおれも明日にでも部活終わってから来れるよ!」

『夕方なら』という言葉に何も感じない天馬は素直に太陽とサッカー出来ることを喜んだ。その様子に太陽は一層目を細めて笑う。

「じゃ、約束。今日は暗いし、また家族の人に心配かけちゃうから帰りなよ。」

太陽は天馬の背中をポンと叩くと、病院の出口の方へ軽く押した。

「うん、ありがとう。じゃあね、太陽!」

「うん、またね。」

天馬は太陽の気遣いを素直に受け取り、大きく手を降ると、出口へ走っていった。天馬が離れたのと入れ違いに、看護師の冬花が太陽の元へきた。

「またサッカーしてたのね。」

太陽は冬花に気付くと、『面倒なのがきた』と思いながらも表情は隠した。

「うん、でも今日はあんまり出来なかったなー。その分天馬にまた会えたから良いけど。」

「無理しちゃダメよ。外にだって、あんまり出ちゃダメ。いつ発作が来るかわからないんだから。」

冬花は太陽の『病気』を知っている。だからこそこうして気にかけているのだが、本人は全く気にしていなかった。

「大丈夫大丈夫。サッカーしてるとね、自然と体が軽くなるんだ。いつもより調子がいいくらいだよ。」

「もう…ほんとにサッカー好きなんだから。」

「へへへ…」

呆れる冬花に、太陽は照れくさそうに笑ったが、冬花の方は『褒めてない』と言いたげな顔だ。

「そろそろ戻らないと、風邪を引いてサッカー出来なくなるわよ。」

「それはやだな、今戻るよ。」

太陽の答えに頷いて、冬花は自分の仕事に戻った。残った太陽は暫く立ち尽くしていた。

(…サッカーが出来ない人生なんて、生きる価値はない。)

太陽はボールを抱える腕に力を込めながら呟いた。


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