初詣の話
冬休み前から、初詣は一年生5人で行こうと決めていた。5人と言うのは、天馬、信助、葵、狩屋、輝の5人である。本当は剣城も誘っていたのだが、天馬が声を掛けても無視されてしまった。
そんなこんなで5人は近くの神社に集まっていた。葵だけ綺麗な着物を着ていて、本人は「どうしてみんな着物じゃないの!」と声を荒げていた。
時刻が昼過ぎな為、神社はそこまで混んでいなかった。きっと殆どが午前中に参拝を済ませたのだろう。葵を気遣いながら一向はゆったりと参拝を済ませてきた。
「願い事何にした?」
葵がひょっこりとみんなの前に出た。
「ボクは身長が伸びますようにって!今に剣城だって抜かしちゃうよ!」
天馬の隣にいた信助が手を挙げて、得意気に答えた。それを聞いて狩屋が嫌みったらしく口を挟む。
「その顔のまま剣城くらいでかかったら気持ち悪ぃっつーの。」
「む。そういう狩屋は何をお願いしたの?」
「ホーリーロード優勝に決まってるだろー」
「あら、意外。まとも。」
「どういう意味だよ空野。」
「僕はサッカーが上手くなりますようにって!」
「輝は充分センスあるからすぐに上達するよ!」
「えへへ…そうかな…」
「わたしは素敵な恋がしたーいって!」
「女の子だなぁ」
わいわいと自分の願い事をみんなが話している中、天馬だけぼーっとしながら歩いていた。天馬には気になることがあったからだ。
「で、天馬は?」
「へっ」
天馬ははっとする。みんなの話はなんとなく聞いていたが、 頭には入っていなかった。
「天馬は何をお願いしたの?」
信助が訊く。天馬は「あぁ…」と頷く。
「おれは…今度は6人で来れますようにって。」
珍しく元気なく笑っていた。
「ああ〜剣城。誘っても無視されたんだっけ?」
信助は天馬が剣城を誘ったときに一緒にいたのですぐに天馬が何を考えてた5かわかった。
「それで今日元気なかったんだね」
「あんなすかしたやつなんていーじゃん、来てたって話なんかしやしないだろー」
輝と狩屋がそれぞれ声をあげる。すかさず、葵が狩屋にげんこつを食らわせた。
「いってー!!!」
「そういう言い方ないでしょー!」
「そうだよ狩屋くん。それに、剣城くん最近はクラスでも割と話しかけたら答えてくれるし…」
「そうだったんだ」
剣城と輝は同じ、天馬たちの隣のクラスだった。天馬の知らない剣城がそこにはいる。
「へぇ〜じゃあ、天馬くんが無視されたってのは、天馬くんが嫌われてたからじゃないのか〜?」
狩屋が天馬に絡みながら言う。ぎくり、と天馬は顔を強ばらせる。
どういうわけか、剣城は天馬を名前で呼ばない。別に呼んでほしい訳ではないが、他の人に天馬と呼ばれて剣城にだけ呼ばれないのは少し寂しい気がした。その、剣城が自分を名前で呼ばない理由=嫌いだからと考えれば無視されたことにも筋が通る。
本気で落ち込んだ様子の天馬に、狩屋は顔をひきつらせる。
「……あー……いや、冗談だけどな。ははは。」
なんだか空気が重くなってしまった。天馬以外のみんなが狩屋を睨んでいる。
「…初めて会ったときに、一番嫌いなタイプだって言われたんだよなぁ…」
天馬の呟きに、更に場の空気が淀む。葵は狩屋を殴った。
「いってぇ!!!!」
「もしかしたら、剣城は今日はお兄さんと過ごしてるのかも。だからさ、おしるこでも持ってお兄さんのお見舞い行ってきたら?」
葵はにこりと笑って言った。
「そうだよ天馬!そしたら、剣城とちゃんと話ができるかもしれない!」
「え…良い案だけど…葵たちは?」
「わたしたち、剣城のお兄さんと面識ないし。狩屋がいたら、話こじらせちゃうから。」
「なんで俺なんだよ!」
「とにかく、いってきなって!」
狩屋以外全員の後押しで、天馬は仕方無く頷く。丁度、屋台におしるこ屋が出ていたので、天馬はそれを2人分買った。
「わたしたちは、秋さんとお話してるから終わったら結果報告ね。」
葵は、まるで友達の告白を送り出すようなノリだった。天馬は半ば呆れた顔でみんなと別れた。
剣城の兄の病室は知っていた。病院に着くと真っ先にそこへ向かった。
「し…失礼します…」
「天馬くん?」
そこには剣城の兄優一と剣城本人がいた。優一は笑顔で天馬を迎えたが、剣城は険しい表情をしていた。
「何で来た……」
「そんな顔するなよ、京介。ほら、天馬くんはお客さんなんだからイス出してあげて。」
剣城は渋々備え付けの丸椅子を出した。天馬は剣城の怪訝そうな表情にびくびくしていた。
「…ごめん剣城。初詣来れないみたいだったから…屋台のおしるこ買ってきたんだ。まだあったかいから優一さんと食べて。」
そう言ってずっと持っていたおしるこを剣城に差し出したら。剣城は無言でそれを受け取ると、ひとつ兄に渡した。
「ありがとう天馬くん。京介もちゃんとお礼言えよ?」
「……ありがとう」
優一に促されるままに剣城は、天馬と目を合わさないで感謝の言葉を述べた。
「どういたしまして…剣城には迷惑だったかな…」
天馬は苦笑いした。やはり剣城は自分が嫌いなのだと確信していた。
そんな2人の様子を見て、優一は小さく笑った。
「京介、気になる子の前で無口なのは相変わらずだな。」
「兄さん!」
涼しげな顔の兄とは違い弟の方は真っ赤になっていた。 その様子に天馬がキョトンとしていると、優一が親切に付け足した。
「もし京介が天馬くんに冷たくても、照れてるだけだから気にしないでね」
その言葉に、天馬は少し表情を和らげた。
「剣城、本当?」
天馬はじっと剣城を見つめた。大きな瞳に見つめられ、剣城は心臓が跳ねて息が詰まった感じがした。
「……もし冷たいと思わせてたら悪かった。」
ただそう答えた。それでも剣城がこういう奴だとわかってる天馬にはそれで充分だった。
「じゃあ、来年は一緒に初詣行ける?」
天馬は目を輝かせて聞いた。しかしそれには剣城はまた険しい表情になった。そのことにまた優一が言葉を挟む。
「京介、俺のことはいいから。来年はお土産よろしく。」
優一は弟が毎年友達と初詣に行かず、正月中自分と過ごしているのは罪悪感からだとわかっていた。だからこそ自分の言葉が一番効くと思った。
「…兄さん……わかった。来年はお前らに付き合ってやる。」
剣城は漸く頷いた。天馬は嬉しくなって剣城に抱きつこうとしたが払いのけられた。
「馴れ馴れしくするな!」
「剣城ありがとう来年が楽しみだよ!」
夜木枯らし荘に帰った天馬が葵たちに全て細かく話し、新学期から『剣城は天馬がすき』と言う噂が経つのは別の話。
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天馬の願いが天まで届きました
実際天馬は、サッカーを取り戻すことをお願いしたんじゃないかなと思ってた
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