君の背中には羽根がある1

※初めだけ暴力表現があります
※超鬱展開です




昼休み、「放課後に河川敷に来い」と見知らぬ三年生に呼び出された天馬。信助と葵は心配していたが、得意のなんとかなるで丸め込んだ。2人に、部活を休むと神童に伝えて欲しいと言って、放課後すぐに河川敷に向かった天馬は、地獄を見た。

河川敷に着くとすぐに三年生たちに囲まれた。そして天馬が発言するより早く、後ろから捕まえられ、そのまま河川敷の公園のトイレに引きずられた。
腕をマフラーで硬く縛られ、口にはガムテープを貼られた。何が起きるか次第に理解してきた天馬は、ガタガタと震える。

「お前さぁ…三国たちを唆したんだって?」

「うちは名門校ってことで通ってるから、あんまりふざけた真似してほしくないんだよね〜」

「お前たちサッカー部が反乱なんかしなけりゃ、推薦で高校いけたのによ!!」

連続して複数の上級生に体のあちこちを蹴られる。助けを呼ぼうにも叫べない。
何分蹴られ続けたろうか、天馬が痛みにぐったりとし始めた頃、上級生が天馬を壁に背を凭れさせて床に座らせた。

「これで全部終わりだ」

そう言うと、コンクリートのブロックを持った1人がトイレの便座に登った。そしてそのままそのブロックを天馬の足目掛けて勢い良く落とした。

「――――――――――!!!!!」

声にならない悲鳴を上げて、天馬は気絶した。




天馬が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。横には神童の姿があった。神童は、綺麗に整った顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた。

「キャプ…テン…?………うっ」

思わず天馬は神童に呼び掛ける。体を起こそうと腕を付いたが、激しい下半身の痛みに襲われて動けない。

「天馬…!まだ起きちゃ駄目だ。安静にしてろ…」

神童は、天馬が目を覚ましたことに気付くとすぐに涙を拭った。そして起き上がろうとした天馬を寝かせた。

「…トイレで倒れているのを、河川敷で練習していた稲妻KFCの子が発見して、救急車を呼んだそうだ。発見者曰わく、かなりの血の量だったらしいから、今は寝ていろ。」

河川敷、と聞いて、すぐに天馬は先程の悪夢を思い出す。

「そうだ…俺…上級生に呼ばれて…」

あれは地獄だった。腹に足がのめり込む感覚が鮮明に思い出される。抵抗もままならぬままに蹴られ続けた。そして、最後に足を――――

「…足…?」

天馬の表情が固まる。そして何を思ってか再び起き上がろうとする。

「やめろ天馬!無理はするな!」

すかさず神童が天馬をベッドへと押さえつける。しかし天馬は抵抗し、暴れる。

「離してください!もうすぐまた大事な試合………試合…………が……………」

何かに気付き、天馬は神童への抵抗を止める。神童も天馬が何に気付いたか察したようで、天馬を押さえるのを止める。

「…天馬…やっぱり…動かないのか…?」

天馬は神童の言葉に、耳を疑った。

「知ってたんですか…?」

神童は静かに頷いた。そして、天馬にとって絶望的な宣告をした。

「さっき医師の人が来て言ったんだ。『もう立てないかもしれないから、部活の方も当然厳しい』って…」






学校からの連絡で、天馬の下宿先の管理人兼保護者代わりの秋が駆けつけた。秋が病室に入った時、天馬は神童の胸で泣いていた。

「…なんでっ…なんでそんな…俺、…サッカーっ…した、したいですっ……」

その状況に呆然と立ち尽くす秋。天馬があんな風に泣くのは見たことがなかった。
そんな秋に神童が気付いた。

「天馬、秋さんが来てるぞ…」

「…あきねぇ……」泣きじゃくりながら、神童から離れて秋のほうを向いた天馬の顔は痣があり、手にも包帯を巻いていた。

「天馬…酷い怪我……。どうしてこんな…」

秋は天馬に駆け寄ると、大事そうに抱き締めた。

「秋ねぇ、俺…サッカーできなくなっちゃった…」

ぽつりと呟いた天馬を、ただただ大事そうに抱き締めた。

「言わなくていい…そんな悲しいこと言わなくていいから…天馬…」

「秋ねぇ…うっ…うわぁあぁあぁん」

何かが途切れたように、声を上げて泣き出す天馬。その背中をひたすら撫でながら、秋は天馬を抱き締めた。神童はただ掛ける言葉も見つからないで立ち尽くしていた。



天馬は入院が余儀無くされた。翌日の、天馬の居ない雷門中は寂しかった。放課後、部員がサッカー棟に集まったが、誰一人サッカーに集中出来なかったので途中で練習を中止にした。
時間を持て余した神童が天馬の病室を訪れると、そこには秋と円堂がいた。

「監督もいらしてたんですか」

「サッカー…できなくなっちまったって聞いて…天馬が心配になってな。」

円堂はそう言って寂しい表情を浮かべた。しかし、その目の前にいる天馬は明るい表情をしていた。

「あっ、キャプテン!来てくれたんですね!部活は大丈夫ですか?」

「あ、あぁ…今日は休みになったから…」

「そうなんですか?あっ、だから監督も来てくれたんですね!」

昨日とは別人のように明るい天馬に、神童は困惑する。天馬は無理に明るく振る舞っているのだ。神童はすぐにわかった。無理やり気丈に振る舞う姿はとても痛ましかったが、かと言って励ます言葉も見つからない。監督と話始めた天馬を見ながら神童はもやもやした思いを抱えていた。

「それで、退院はいつになるんだ?」

円堂の言葉に、今まで明るくしていた天馬の表情に影がかかる。何故か秋も暗い表情になった。
天馬はゆっくり口を開いた。

「…手術の余地がないって、お医者さんが言ってました。だからもう、自宅で車椅子生活になるかこのまま入院するかって話なんですけど、自宅じゃ、秋ねぇに迷惑掛けちゃうから…」

本当にもうだめなのか、神童は絶望した。ついこの前までグランドを駆け回っていた天馬がもう見られない。その事実が神童に重くのしかかった。

「そんなの気にしなくていいわよ!」

秋が声を上げた。しかし天馬は首を振った。

「だめだよ秋ねぇに無理させられない…。だから俺、沖縄に帰ろうと思って…」

大人みたいに気を使う天馬に、神童は違和感を覚えた。小学生で親を離れた天馬の精神は、見た目や普段の行動より遥かに大人びてしまったのだ。それをある程度知っていた神童は、どうにかこいつを普通の子供並みに甘やかしてやりたいと思った。神童はある決意をした。

「天馬。」

神童は凛とした声で天馬を呼んだ。天馬は、神童が何気ない日常会話をするんじゃないってことだけわかって神童の方をまっすぐに見つめた。

「キャプテン…?」

「天馬…うちで暮らさないか?」

瞬間、その場にいた神童以外の全員が驚いた顔をしていた。

「ででで出来ませんよ!」

天馬は思いもよらぬ神童の発言に先程までの大人びた表情を一転させて素の驚いた顔をしてた。

「俺の家は空き部屋があるし、経済力は多分天馬の家や秋さんの家よりある。俺の家からなら雷門に通えるし、悪くない話だと思うんだ。」

神童は淡々と天馬に告げた。迷いや躊躇いはないかのように。その突拍子もない提案には秋も困惑していた。

「親御さんは大丈夫なの?神童くん…」「ええ、滅多に帰りませんし、うちには住み込みの使用人もいますから、住人が1人増えた所で大差ないです。」

神童のお城のような家を思い出して天馬は納得した。だが、ただの部活の先輩である神童に養って貰うなどは未だ躊躇われた。
そこに円堂が口を挟んだ。

「神童。お前はそれを望んでいるんだな?」

その問いに、神童は迷わず頷いた。円堂はニカッといつもの調子で笑うと、天馬の肩を叩いた。

「天馬、神童んちの世話になれ。」

「か、監督…?」

「今の雷門には確実にお前の存在が必要だ。ピッチに立てなくても、ベンチからでも、お前の存在感は雷門の追い風になる。今沖縄に帰られたら、雷門はその追い風を失う。」

円堂の言葉に、天馬は揺らぐ。そう言われてしまえば断りにくい。
そんな天馬に、円堂はもう一押しする。

「他人だからって遠慮するんなら神童に嫁げ。」

「か、監督っ!冗談はやめてください!」

すかさず神童が顔を真っ赤にしながらツッコミをいれる。笑いながら神童を宥める円堂を見ながら、天馬も意思を固める。

「キャプテン…俺、お荷物になるかもしれないけど、雷門の試合見届けたいです。」

「…!」

天馬は神童をまっすぐに見つめてから、頭を下げた。

「不束者ですが、よろしくお願いします。」

そんな様子の天馬に、神童と円堂が同時に吹き出す。

「それじゃあ本当に嫁入りみたいだぞ、天馬」

「ええええ!すみません!えっと…じゃあ…俺の人生をキャプテンに…」

「それは重い」

神童と円堂と秋の笑い声の中、天馬も無意識に表情をやわらげていた。




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キャプテンは無意識だけど天馬が好きです。その話は後編で。

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