そして迎えた当日。隼総は誰とも口を聞かずグラウンドに上がる。それを見た西野空が隼総に近付いていく。

「中盤、俺がお前にパスを出すけど…くれぐれもミスしないでよね?シードくん。」

西野空はそれだけを一方的に言えば持ち場についた。

喜多は相変わらず隼総を気にしていたが何を話しかけてもまともに返事をしてもらえない。

(…なぜ…あいつはあんなに俺たちを嫌うんだ…)

初対面からあんな態度だったのには理由がある。そんな気がした。

そしていよいよ、試合はスタートした。天河原ボールからのキックオフ。安藤から星降へ繋ぎボール喜多へ。

しかし喜多はすぐに相手チームに四方を囲まれてしまう。

「こっちだ!」

隼総が叫んだ。喜多は咄嗟に隼総にパスを回した。隼総はそれを受けると駆け上がった。

「へぇ…サッカーになると喋るんだ?」

西野空がからかうように笑う。喜多も正直驚いていた。シードだから実力があるのは確かだが、確実にこちらの動きも読めている。

「隼総、星降だ!」

喜多が叫ぶと同時に隼総は星降にパスを回していた。星降はそのままドリブルでゴール前まで上がる。

「…これで先取点だ…!」

星降はそのままシュートを放つ。ボールは相手チームのキーパーの腕を抜け、ゴールへ。

「…よしっ!」

喜多がは隼総の方へ歩く。

「ナイスアシストだ、隼総。」

「…ふん、勝つためだ。」

隼総はそっけなく返すと持ち場についた。

試合は敵チームのボールからスタート。
直後、ボールをカットしようとした西野空を敵チームのミッドフィルダーが突き飛ばした。
喜多は審判を見たが審判の前には敵のディフェンダーが立っておりちょうど西野空たちはその死角だった。

「ラフプレーで有名な天河原も、やられる側は不慣れなんだな。」

敵のミッドフィルダーが笑って言った。

「テメェ…!」

安藤が殴りかかりそうなのを喜多が制した。

「やめろ。それより西野空、大丈夫か。」

「平気平気。ちょーっと油断したかな。」

西野空は軽く笑うと敵チームを睨んだ。

「ただ…厄介な展開になりそうだよねぇ…」

西野空の推測は当たり、その後も敵チームはラフプレーを容赦なくかました。こちらも仕返しをしたい所だが、ホーリーロードを控えているのでたかが練習試合に危険なプレーは避けたい。

「このままじゃやられっぱなしだよねぇ…むかつく。」

西野空は爪を咬みながら忌々しげに呟いた。ボールは喜多が持っていた。その時、

「…隙有り!」

敵のディフェンダーが喜多の足をめがけてスライディングした。

「…チッ…退け!」

「…うわっ…」

敵の足が喜多に触れる直前に、隼総は喜多の肩をぐい、と後ろへ引き、一旦敵にボールを取らせると、素早く敵の前に踊り出てそれをカットした。

「どいつもこいつもどんくせぇな…おらよ!」

そして目にも止まらぬ速さでゴールの方にいた安藤にパスした。敵ディフェンダーは審判の前にいたのでゴールはがら空きだった。

「サンキュー隼総。行くぜ!」

安藤はそのままシュートを放ち、敵キーパーは対応しきれずボールは再びゴールへ。

「よっしゃ!」

「安藤先輩やるねぇ。」

そして丁度前半は終了した。皆が連続得点に喜んでいる中、喜多は隼総の方へと駆けた。

「ありがとう、隼総。」

ふとそれを見ていた西野空も続いた。

「…まぁまぁ、良い仕事してんじゃない?」
隼総は2人を一瞥すると、顔を反らしながら呟く。「…おまえらもなかなか良い動きだ…」

「…!」

初めて隼総がチームを褒めた。喜多は頬を緩めた。隼総はそれを見て逃げるようにグランドに向かった。

「…良い奴かも知れないな。」

星降が呟いた。喜多はそれに頷いた。

「いや、良い奴だよ。ちょっと不器用なだけなんだ。」

星降はクスクスと笑うと一旦休憩を取った。

そして後半戦。プレーを見て誰もが隼総を信頼した状態でスタートした。敵は懲りずにラフプレーをしてきたが、前半でだいたい敵の動きが掴めたのか皆対応しきれていた。

試合終了のホイッスル。得点は2-0で、天河原の勝利に終わった。

「勝った〜!」

「当然だけどねぇ」

帰り支度をしながら、わいわいと話す一同。

「久しぶりに全力だったしな」

「やっぱ自由なサッカーは…おっと…」

言いかけて安藤は隼総を見る。

「…別に、発言まで取り締まれって言われてる訳じゃねぇ…それに…」

隼総は一瞬口ごもる。

「……俺も…楽しかった…」

「!」

その日の帰り道は天河原イレブン全員という大所帯で歩いた。誘った時、渋るような顔をした隼総だったが、少し考えてから溜め息混じりに承諾した。

「なぁ帰りにマック寄らねー?」

「寄り道かよ…」

「隼総意外と真面目だよな…」

「行かねーなんて言ってねーぞ」

「へぇ、今日は付き合いいいねぇ。なら、祝勝会やっちゃいますか」

「祝勝会ならマックよりファミレスがいいんじゃないかしら?」

「監督も来るんですか!?」

「うふふ、サイゼのドリアくらいならおごっても良いわよ?」

「監督太っ腹…!!!」

そんなこんなで隼総は天河原イレブンと打ち解けた。後日監督は喜多にこう話した。

「十年前、ある中学生がインタビューでこんなことを言ってたわ。『サッカーが好きな奴に悪い奴はいない』って。」

喜多は返した。

「隼総…あいつ、チームに馴染めない間ずっと1人でも毎日欠かさず練習に出て、ボールに触ってました。サッカーが好きじゃなきゃ、あんなこと出来ません。」

「そうね…」

監督は笑って言った。

「隼総くんも、きっとみんなも同じようにサッカーが好きだって気付いて、心を開いてくれたのかもしれないわね。」

隼総は天河原のプレースタイルを知っていると言っていた。ラフプレーの多いチームとして、警戒していたのだろう。

彼らはお互いを知り、絆を深め、来たるホーリーロード出場に向けて日々練習をした。勿論帰りは、

「隼総〜帰るよ。ちょっと…早くしてよねぇ。置いてくよ?」

「ちょ…待てよ!」

みんな一緒で。

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