だれかと天馬
2012/03/12 18:23


「じゃあな。」

そう言って、ひらひらと手を振る後ろ姿が徐々に遠くなる。風が吹いて、目を瞑った数秒のうちに、その姿はもう声も届かないところにあった。

「天馬ー!」

ぱたぱたと近付く足音に振り返ると、信助が天馬に駆け寄ってきた。

「あれ?」

天馬の前まで来ると、信助は首を傾げた。

「第2ボタン、誰かに上げたんだ〜。三年の女子に知り合いなんていたの?」

信助の目線の先、天馬の胸元、制服の2番目のボタンのある場所は、なぜかぽっかり空いていた。訊かれた天馬はくるりと信助に背中を向けた。

「…ううん、落ちちゃったみたい。」

「へぇー。卒業式にボタンなくなったから、てっきり誰かにあげたのかと思ったよ。」

信助は軽く笑った。

「もう先輩たちのお見送り終わったし、そろそろ教室戻ろ?」

「ああ、うん。」

天馬は信助に向き直ると、笑顔を繕って、教室に向けて歩く信助に続いた。
ボタンを無くした胸元を握ると、あの人に触れられた頬が桜色を帯びた気がした。

(落ちたのはボタンじゃない)

息吹き始めた桜の蕾は、春の訪れを告げていた。


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出会いと別れと恋の季節でございます。私は先週、妹は今日卒業式でございました。

あ。相手はご想像にお任せします。




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