パラレル(長め)
2012/03/09 15:08

車椅子の少年が、桜の木の下で顔を上げる。舞い散る桜が風に乗ってふわりと揺れる。少年の視線の先には、特徴的なシンボルマークのある校舎。

(ここが今日から、おれの通う学校かぁ…)

少年は車椅子を手で漕ぎながら、ゆっくりと校舎へと向かった。





「おー!見ろよ速水!あれがオレらのかわいいかわいい後輩たちだぜ!」

「はぁ…そうですね…」

窓の外を覗きながらはしゃぐ男の横で、速水と呼ばれた方が乗り気じゃなさそうに答える。
そんな乗り気じゃない相手の様子など気にしない男は、気にせず窓の外を見つめる。ふと、校門を車椅子でくぐる少年が目についた。

「椅子の子とかも居るんだなー!ちゅーか、超大変そー…」

その言葉に少し興味を持ったのかもう1人が窓の外を見ると、車椅子の少年は誰の手も借りないで1人で車椅子を漕いでいた。その様子に、冷めた声で呟くしかなかった。

「…こんな学校、無理してくる必要ないのに…」

「あはは。たしかになー…。」





車椅子の少年が先生に手伝ってもらって教室に入ると、見知った顔がいた。

「天馬〜!」

少年を天馬と呼んだ少女は、少年――天馬に駆け寄ると少し怒ったように顔をしかめた。

「もう!言ってくれたら迎えに行って車椅子押したのに!」

「それは葵に悪いよ。それに、今日だけでも自力で来たかったんだ。初めての登校だから。」

天馬は、葵と呼ばれた少女に笑って答えると、車椅子を自分で押して、机の前に着いた。元々用意してあった天馬の席には車椅子のままで良いように椅子はなく、また場所も一番後ろのドアの横だった。
少女――葵は天馬の隣に座ると、仕方ないと言うように溜め息をついた。

「明日からは、迎えに行くからね。」

「なんか葵、おれの彼氏みたい。」

「仕方ないでしょ〜っ!」

2人で笑いあっていると、天馬の前の席の少年が振り返った。

「ねぇねぇ、きみたち仲良いね。幼なじみ?」

少年は酷く小さく、幼い顔をしていたが、この教室にいるからには天馬や葵と同い年である。天馬はこくりと頷くと、少年に答えた。

「うん。小学校からの友達。」

「へぇ、いいね。ボクそういう友達いないからさ、仲良くしてよ。」

少年が手を差し出したので、天馬は迷わずそれを握り締めた。

「うん。おれ、松風天馬!よろしく!」

「ボクは西園信助!信助でいいよ。」

「わたしは空野葵。よろしくね、信助。」

3人は互いに握手を交わした。





入学式とホームルーム、すべて終えて放課後を迎えた3人は、葵が天馬の車椅子を押す形で廊下を歩いていた。

「部活かー…おれは運動部むりだしなー…帰宅かなー…信助はどこか入る?」

「ボクはサッカー部かな。雷門中はサッカーの名門だからねー!」

「へえ。じゃあおれも見学だけいこうかな。」

「わたしも見たい!」

「じゃあ行こー!」

そうして3人はサッカー部の練習場所であるグラウンドに向かった。
しかし、そこにいたのはボロボロになって倒れるサッカー部員たちだった。よく見ればその中心に1人だけ無傷の少年がいた。雷門中とは違う紫の制服を着ている。

「なんだ?こんなもんかァ?」

紫の制服の少年はクスクスと笑って、足元に転がる部員を踏みつけた。
それを見ていた天馬は震えていた。

「なんだよ…あれ…!葵!おれ止めて来るから手離して!」

「無理だよ!あんなにやられてるじゃない!」

「ほっとけないよ!」

パシンッと葵の手を車椅子から払うと、天馬は自分で車椅子を漕いで少年の方へ向かった。
葵はそれを追おうとしたが信助が葵の手を引いた。


「天馬!」

「だめだよ葵ちゃん。ボクが行くから葵ちゃんは先生を呼んできて。ね?」

信助の言葉に、葵はぐっと拳を握った。「……わかった…天馬をお願いね…」

「うん。任せてよ。」

そう言うと葵は職員室へ、信助は天馬のあとを追った。





「あれ、やばいんじゃね?」

教室の窓からグラウンドを覗いていた少年の言葉に、先程速水と呼ばれていた方もちらりとそちらを向き、目を開いた。

「や、やばいじゃないですか!早く神童くんたちに伝えないと!」

「だよなー。…行くか!」

2人は隣のクラスへと同時に駆け出した。



一方、天馬は少年の2、3mまで迫ると声を上げた。

「君、やめなよ!」

天馬の声にはっと振り向いた少年は、天馬の姿を視界に捕らえると睨み付けた。

「何だお前…」

「暴力は良くないよ!」

「お前には関係ないことだ。」

「天馬!」

信助が天馬の元までたどり着いて、横に並んだ。

「信助…危ないよ。」

「天馬こそそんな体でどうするつもりだったの?ボクはこれでもサッカー部志望だよ!」

信助が天馬に笑いかける。少年は気に入らなそうにそれを見ては、鼻で笑った。

「へぇえ?…ならテメェが相手になるかよ!?」刹那、強いシュートが少年の足から放たれた。信助はそれを腹に受けると数m吹き飛ばされた。

「うわぁあぁあぁっ」

「信助!」

「相手にならねぇな。」

天馬は信助に駆け寄る。うずくまる信助を覗き込む。

「大丈夫っ…信助…!」

「うう…天馬、逃げて…」

信助の言葉に天馬は首を振った。

「…ううん。友達がこんなふうにされて自分だけ逃げるなんて出来ない。」

天馬はキッと少年を睨み付けると、少年の方へ車椅子を漕いだ。少年は少し眉根を寄せた。

「…おれが君のボールを止めたら、もうみんなを傷つけるのはやめてよ。」

「その足で、か」

「手と頭がある。」

「断る。」

「なんで、」

「無理と目に見えている。やるだけ無駄だ。」

「なんとかなるかもしれない。やる前から決められないよ。」

天馬はまっすぐに、強い目で少年を見る。少年は歯を噛み締めた。

「…そんなに言うなら止めてみろよ!!!」

自棄になったように少年はボールを蹴り上げてから天馬目掛けてシュートを放った。同時にグラウンドに走ってきたのは、先ほど教室からグラウンドを見ていた2人を含む11名の生徒だった。ボールの先にいる天馬を見て腕にキャプテンマークをつけた少年が止めようとボールを構えて、隣にいたピンクのおさげの少年が声を上げた。

「ダメだっ…ここからじゃ間に合わない…!」

「絶対…みんなを守るんだっ!!!」

瞬間、天馬の背中に黒いオーラが溢れ、紫の制服の少年は目を見開く。

「まさかっ!」

「うぉりゃあぁあぁあ!」

勢いよく天馬がボールにヘディングした。天馬が力を込めると、ボールは宙へ跳ね返り、少年の足元へ転がった。

「…なんだと…………」

「やっ…やったぁぁぁぁ!」

天馬が拳を突き上げ、喜びの声を上げる。その様子にあとからきた11人は息を飲んで黙り込んだ。

「すごい…すごいよ天馬!あんな強いシュートを!!!」

信助も驚いて声を上げた。立ち尽くす紫の少年はわなわなと震えながら、信じられないと言うように立ち尽くしていた。

「馬鹿な…こいつが…」


雷門中サッカー部に、波乱と革命を巻き起こす風が、今吹き始めた。



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豪炎寺さんに助けられなかった天馬が海辺の資材置き場で倒れてきた木材の下敷きになり、一命は取り留めたものの足に回復困難な怪我を負った話。雷門に来たのは、仕事が忙しい両親の代わりに親戚の秋が面倒を見るため。
描写等に私のやる気のなさが伺える文章でした。お粗末様です。



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