剣城と天馬
2012/02/21 02:36

※天京に限りなく近い京天

帰宅後、天馬はもう数える人が隣に居なくて何度目かわからない溜め息を吐く。
キャプテンが当たり前のようにできることが、自分には何ひとつこなせない。それどころか、チームのみんなが、自分に失望したかもしれない。誰もそんなことは口にしなかったが、それくらい酷かった自覚はあった。
今日の練習を思い出すだけで、息がつっかえる。思い通り行かないことがもどかしかった。
ふと、剣城の怒声がリフレインする。
あの声は苛立ちが籠もっていた。当たり前だ。あんなプレー、あんな采配だったのだから。剣城の態度は、チーム全員の気持ちを代弁したようだった。だが何より、剣城本人に呆れられたことが、天馬にはつらかった。

天馬は何気なく携帯を開く。メールが二件。信助と葵からだった。2人とも自分を励ましてくれる内容を送ってきていた。正直、今は返事をする気になれずに、天馬はベッドに突っ伏した。

目を閉じると、思考ばかりが働く。
剣城に認められたかった。そう強く思っていた。プレイヤーとしても仲間としても友人としても、剣城に認められれば、剣城と仲良くなれると思った。剣城が兄を見るその目を自分にも向けてくれると思った。

天馬が剣城を追う気持ちは、いつしか友愛を越えていた。ただ、それを自覚したとき、天馬は失恋を自覚した。あの剣城が、男である自分を好きになるはずがない。ましてや、誰より剣城に怒られている自分が。そう思って天馬はずっと剣城への気持ちを抑えていた。
それが今、剣城にあからさまな厳しい差別的態度を取られて弾けそうになる。声か、涙になりそうだった。シーツをギュッと握りしめ、やり場のない感情をどうにか抑えていると、携帯が鳴った。

ディスプレイに表示された名前は、天馬の心臓を瞬間的に止める。携帯に手を伸ばした天馬は、震える手でメールを開いた。
そこにあった文は、天馬の考えを裏切った。同時に、何故か涙が溢れた。天馬の手から、携帯が音もなく落ちてベッドに横たわった。

明日はがんばれよ。

その一言が、天馬の心を縛るきつい何かを切り裂いた。天馬はそれだけで気持ちが楽になっていった。

(おれ、どんだけ剣城のことすきなんだろう。)

天馬は泣きながら笑っていた。




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